大成建設が「建設生産DX技術パッケージ」構築、省人化と品質向上の両立なるか
建設業界は少子化による担い手不足を解消するため、デジタル変革(DX)を積極的に推進している。ただ機械やシステムが高額で不採算となり、導入現場が限られ実証実験の段階で開発が終わるものも多い。大成建設は個別プロジェクトで試行したデジタル技術を、一つのプログラムに集約したパッケージ施工を構築。実用性と汎用性のある最先端デジタル技術で、働き方改革を実現する省人化と品質向上に向けた生産プロセスのDXを目指す。
大成建設は自社開発技術を結集した「建築生産システムDXパッケージ施工」を、技術研究所実験棟(横浜市戸塚区)の建て替え工事に導入した。
工事ではフルBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)によるデジタル技術を活用し、設計から施工まで一連の作業を実施した。
基本技術の一つが2021年2月に開発したプラットフォーム(基盤)「ライフサイクルOS」。クラウド上で設計・施工・維持管理に至る建物ライフサイクル全体に関わるBIMデータと、建物の運用・管理の情報を組み合わせた独自の「サービス用BIM」、施工後に蓄積する施設、ロボット、エネルギー、環境など管理情報を連係した統合管理システムだ。建物の運用状況の見える化や運用の最適化、効率化を図り高付加価値サービス提供を目指している。
DXに向け技術開発を担当する中谷晃治建築総本部生産技術イノベーション部先端ICT推進室長は、「高額なロボットや機械、システムは広く現場に普及しない」と、技術開発で汎用性と実用性の重要性を説く。
今回の建て替え工事では、実証実験ではなく実際の工事と位置付けて挑んだ。設計段階で検証やシミュレーションを繰り返し、従来は施工段階で行われてきた作業を前倒しして、設計段階で完了させるBIMフロントローディング、ウェブによる現場カメラ確認、クラウド朝礼などの業務プロセスや作図BIMによる図面化、鉄骨ファブのデータ連携、遠隔操作の四足歩行ロボットや掃除ロボットの活用など設計・施工に関する約50のメニューを採用。現場作業の工程管理や安全品質、コストバランスなどは本社が支援した。
現場では、関係者のほぼ全員が携帯端末のアイパッドを携帯。整備されたWi―Fi(ワイファイ)環境下でクラウドを通じて現場と本社がデータを共有し、正確な情報を得ることでミスを防いだ。現場で四足歩行ロボットを遠隔操作した永田達也横浜支店技術センター施設拡充工事課長代理は、「ソフトとシステムの相性が重要」と実感したという。
今後は利便性や安全性が優れた維持管理業務を目指す。センサーやカメラで収集した建物の運用データや人流データを連携し一元管理。空調機器や照明器具などの検査情報なども加え、効率的で最適な改修工事の基本データとして活用する。現在、開発段階や改善が必要な各種デジタル技術などを全国の支店で施工するモデル現場12カ所で実用化に向け試行錯誤を繰り返す。研究所の試験で成果があった技術を技術研究所でブラッシュアップして全国展開する方針。
佐藤靖昌横浜支店技術センター施設拡充工事作業所長は、「今回の取り組みを通して、DXの便利さを社内外の関係者に発信していきたい」と話す。