エアークローゼット創業以来初の黒字転換を支えた「循環型物流システム」とは?
現在、乗用車や自転車、家電など多くのシェアリングサービスがある中、2015年という早い時期にファッションのシェアリングサービス「airCloset(エアークローゼット)」を開始したエアークローゼット(東京都港区)。21年に創業以来初の黒字転換を実現した同社だが、それを支えたのは独自開発の「循環型物流」だった。19年にはアイテム管理にRFIDタグを導入したことで、作業効率が上がりコスト削減に成功。開発時間や費用の削減を理由に物流を外注する企業も多い中、なぜ同社は独自のシステム構築にこだわったのか。(取材・昆梓紗)
RFIDがカギに
同サービスは、ユーザーが選んだプランに応じ毎月3~5着の服が届き、着用後は洗濯をせずにそのまま返送するというもの。同社はクリーニング以外の倉庫管理を自社で行っている。「(類似サービス提供業者は)既存の物流システムをカスタマイズする場合が多いですが、ファッションシェアリングサービスの仕様を試行錯誤したり、カスタマイズするのに限界があると感じていました」と天沼聰CEOは振り返る。また、創業時より、構築したシステムを自社のみで使うのではなく、プラットフォーム化して他社へも解放する想定をしていた。開発には2年を費やした。
現在は、服の新規入荷時にタグを取り付けて採番するとともに画像や寸法などの初期データ登録を行う。出庫時には倉庫内の保管場所を表示するほか、RFIDをスキャンするだけでデータと服の紐づけ作業が完了。入庫時にはユーザーから返送された袋ごとまとめてスキャンできる。これにより、物流オペレーションコストが12%削減されるとともに、目視確認、袋やタグの付け外しなどの人的作業負荷が不要になった。
シェアリングサービス拡大に向けて
「ファッション以外でもシェアリングサービスが広がっており、ユーザーの認知度も向上しました。一方で、サービス継続を左右するのは物流やオペレーション。それらの維持管理コストに耐えきれなくなるというのが、サービスクローズ理由の多くを占めています」(天沼CEO)。そこで同社の構築した物流プラットフォームを提供することで、ファッションシェアリングサービスに新規参入する企業・ブランドの課題解決につなげたい考えだ。
1月よりスタートしたアパレル4ブランドとのコラボレーションプラン(※)にて先行実証を行っており、今後事業者へのヒアリングを重ねて22年内の事業化を目指す。製品を提供するだけで利用できる仕組みを基本としているが、「アイテム管理データは自社のものを利用したい」などのカスタマイズも想定しているという。
コロナ禍により、ファッション業界全体に落ち込みが見られている。矢野経済研究所によると、20年の国内アパレル総小売市場規模は前年比81・9%と大幅な減少となった。同社でも「売上ベースでは成長しているものの、新規ユーザー数の伸びは想定より少ない」(天沼CEO)という。
一方で、家にいながらトレンドの服を多く試せるシェアリングサービスの特徴がコロナ禍の生活にマッチしている部分もある。実際、ブランドとのコラボレーションプランを先行実証した際も、「新たな服にチャレンジしたい」というニーズから利用するユーザーが多かったという。
また、今後はサステナビリティの観点からファッションシェアリングサービスが拡大することも考えられる。実際、「利用中のユーザーからはサステナビリティをメリットとして挙げる声が増えてきました」と天沼CEOは話す。さらに、アパレルメーカーやブランドなど、事業者側の意識の高まりが先行していることを受け、同社では物流プラットフォーム外部提供の事業化を進めることでアパレル業界のサステナビリティ施策の一つとしてシェアリングサービスを提案していく。
(※)月額制ファッションレンタルサービス『エアークローゼット』内に単一ブランドのレンタルサービス『ブランドセレクト』オプションを新設。