岡山県浅口市は「国産ストロー発祥の地」、シェア5割を持つシバセ工業の矜持
シバセ工業は国産ストローのシェア5割を持つ最大手だ。飲料向けだけでなく、工業向けストローの市場開拓を地道に行ってきたことが奏功し、2022年3月期の売上高は2005年以降で最高を見込む。新型コロナウイルス感染拡大により、飲料用が大きく減少する中、2020年に発売したPCR検査用ストローの受注が一気に拡大した。磯田拓也社長は雇用の創出が最大の地域貢献といい、今後も持続的な成長を目指し、社員数も拡大していく方針だ。
国産ストロー発祥の地
シバセ工業の本社が立地する岡山県浅口市は国産ストロー発祥の地とされる。明治時代、麦の栽培が盛んだった土地柄、麦わら帽子などの加工品も生産された。同時期に川崎三一という人物が麦わらを原料に麦わらストローを生産したのが、国産ストローの始まりといわれている。戦後は原料が樹脂に変わり、浅口市には多数のストローメーカーが存在した。
その後、韓国や中国から割安なストローが入ってきた。また、ストローを発注してくれていた街の喫茶店が減り、チェーン店が出店を拡大。浅口市のストローメーカーは受注が大きく減少し、今では4~5社しか残っていないという。国内全体でもストロー市場の9割が輸入品で国産は1割しかない。
シバセ工業は1926年に米の販売や精米を生業として芝勢商店を創業。1949年には浅口市の特産品の一つである、そうめんを生産する芝勢興業株式会社を設立した。だが競争が激しく、そうめん製造を止め、ストロー生産に事業転換した。ストローメーカーとしては後発だったが、大手食品・飲料メーカーから仕事を受注し、事業を拡大した。
しかし、容器がビンから紙パックに切り替わる時代の流れで、2段式伸縮ストローが採用され、シバセ工業の受注量は徐々に減少した。1999年に工場長(当時)として入社した磯田社長は新規取引先を開拓するため、営業担当社員を採用するなど手を打った。2005年、社長に就任すると新規開拓をさらに強化する。
経営方針は「自主独立」。1社依存はリスクが大きいと判断し「下請けにはならない」(磯田社長)と決めた。また、国内のストロー市場で9割を占める輸入品に対抗するため、多品種少量のストローを生産し、スピード感を持って顧客の要望に対応することにした。さらに2007年にはストローの新たな用途として工業向けのストロー生産を始めた。
多品種少量で品質が確かなストローは新規の顧客を徐々に開拓していった。2005年3月期の売上高は1億3000万円程度だったが、2011年3月期に2億円を突破。その後も順調に売り上げは伸び、タピオカブームなども後押しし、2020年3月期は4億6000万円まで売り上げは拡大した。
東京五輪でも採用されたPCR検査用ストロー
だが、同年、新型コロナウイルスの感染拡大が世界で猛威を振るう。国際線は軒並み運航休止となり、海外からの観光客の姿が消えた。さらに緊急事態宣言の発出により、外出自粛、百貨店や飲食店などは休業した。イベントも軒並み中止に追い込まれた。
シバセ工業の売り上げにも影響し、2021年3月期は前年度に比べて3割も減少した。新型コロナウイルスの感染が長期化する中、飲料向けの回復が難しいと判断し、工業向けストローの需要開拓を強化した。
そうした中、2020年6月に新型コロナウイルスのPCR検査用のストローを発売。半年程度は受注量が少なかったが、2021年に入り、検査機関や病院などから受注が舞い込むようになった。同年夏の東京オリンピック・パラリンピックでは大会関係者のPCR検査に採用され、約120万本を出荷した。PCR検査用ストローの受注は秋以降も堅調で、2022年3月期の売上高見通しは約5億円。V字回復し、2005年以降では最高を更新する見通しだ。
地域で雇用の場を創出
磯田社長が社長に就任した2006年3月期の売上高は約1億3000万円。16年間で売上高は約3.8倍拡大し、従業員数も15人から50人に増員した。本社を構える岡山県浅口市は人口約3万3000人で、農林水産業が主要産業。地域にとって働く場の確保が大きな課題となっており、磯田社長は「雇用の場を創出できたのが一番の地域貢献」と語る。
2022年4月には大卒3人、高卒3人の新入社員を迎える予定になっている。今後も同数程度を採用していく計画だ。同社は年率10%の成長を目標に掲げており、10年後をめどに売上高10億円を目指す。成長に伴い、「社員数も増やす必要がある」(磯田社長)ためだ。
地球温暖化が世界共通の課題として対応に迫られている中、環境への投資を早い時期から実行した。2008年に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の補助金を活用し、本社工場の屋上に出力30キロワットの太陽光発電を設置した。さらに2020年には水力発電を電源とする「おかやまCO2フリー電気」の導入契約を中国電力と結んだ。県内最初の契約で、工場で使う全ての電源を再生可能エルギーとした。
また、磯田社長は同県内の中学や高校、大学で講演したり、生徒の工場見学を受け入れたりしている。モノづくりの魅力を知ってもらうのが目的だが、「生徒から予想外の質問を受け、自身の勉強にもなっている」(磯田社長)という。
国産ストロー発祥地でストローの生産技術を高め、トップシェアを獲得したシバセ工業。今後もユーザーとオープンイノベーションを築き、ストローの新たな用途を開拓していく方針だ。
【企業情報】
▽所在地=岡山県浅口市鴨方町六条院中3037▽社長=磯田拓也氏▽設立=1949年▽売上高=約5億円(2022年3月期見通し)