ニュースイッチ

持続可能なアパレル・繊維産業へ、メーカーたちのあの手・この手

持続可能なアパレル・繊維産業へ、メーカーたちのあの手・この手

クラボウは繊維産地やアパレル企業と連携し、端材のリサイクルを進める(繊維製品の端材から作ったループラスの綿)

アパレル製品(衣料品)の環境問題の解決に向けて、国内繊維業界で新たな動きが出始めた。個社のリサイクル技術や環境負荷の低い繊維の開発とともに、環境対応をサプライチェーン(供給網)にまで広げることで、社会への貢献を大きくする。衣料品は、原料調達や紡績、染色、裁断・縫製など、大小さまざまな工場の分業によって生産される。持続可能なアパレル・繊維産業実現のキーワードは連携だ。足元の動向を追った。(大阪・友広志保、梶原洵子)

【クラボウ】裁断くず→繊維でムダなく

クラボウは、裁断くず(端材)を新しい繊維に戻す取り組み「ループラス」を通じ、繊維産地やアパレル企業を巻き込んだリサイクルを推進している。2021年から愛媛県の「今治タオル」の端材をループラスで繊維にし、奈良県で「奈良靴下」を生産する産地間の連携をスタートさせた。

廃棄物削減と有効活用だけでなく、「今治タオルからアップサイクルした奈良靴下」という付加価値を持たせた製品の展開につながる。具体的には、今治タオル工業組合が回収した端材で生産した糸を、奈良県靴下工業協同組合の協力を得て同組合加盟企業に供給する。

ループラスは、繊維製品の生産工程で発生する端材を綿に戻し、安城工場(愛知県安城市)の専用ラインでバージンコットンと混合して紡績するもの。クラボウと個別企業の1対1の取り組みで裁断くずを繊維に戻すこともできるが、再生繊維の活用の幅を拡大するため、産地間の連携を重要なコンセプトに掲げる。

クラボウの小林靖弘繊維事業部繊維素材部長は「国連の持続可能な開発目標(SDGs)を広げるためには、繊維産地の理解が不可欠」と話す。地域の繊維産地では大企業ほどSDGsの認知が進んでいない。クラボウは今後、ループラスを軸に他の繊維産地やアパレル企業の連携を促し、業界全体でSDGsの推進につなげたい考えだ。

【シキボウ・ユニチカトレ】脱炭素で共同開発品

シキボウとユニチカトレーディング(大阪市中央区)は、21年12月に開いた協業後初の合同展示会で、「脱炭素社会」などをテーマに共同開発品を披露した。ユニチカトレの異素材を組み合わせた糸「パルパー」をシキボウの「アゼック」技術で織った新素材だ。再生ポリエステルとコットンを組み合わせて吸水速乾性を持たせたパルパー繊維を、通気性に優れた素材を織るアゼック技術で織ることで機能を高める。

リサイクル材を使いつつ、「機能とブランド力などの最大化を図る」(ユニチカ広報)のが狙いだ。パルパーとアゼックは両社の代表的な商材で、「繊維業界内に対するインパクトは大きい」(シキボウ広報)という。企業ユニホームやスポーツウエア、アウトドアウエア、カジュアルウエア向けに供給する。

パルパー×アゼックのほか、環境対応型素材として、シキボウは裁断後の余り生地から糸を作る技術「彩生」、ユニチカトレはバイオマス由来のポリ乳酸(PLA)繊維製品「テラマック」を展開。協業で素材開発の選択肢はさらに広がる。

渡辺巧ユニチカトレ取締役は「お互いの技術や設備を掛け合わせ、スケールアップした製品開発を進めてきた」と協業の意義を説明する。

【旭化成】染色時の水使用3割減

旭化成は再生セルロースのキュプラ繊維「ベンベルグ」の生産90周年プロジェクトの一環で、供給網の環境負荷低減に貢献する技術開発を始めた。2―3年内に染色時の水の使用量を2―3割減らせる技術を実用化し、協力先の染色加工メーカーでの利用を目指す。

染色時の水の大量消費は繊維製品の環境課題の一つ。ベンベルグは同社が世界で唯一生産するニッチな繊維だが、開発する染色技術は同じセルロース系繊維のコットンなどへの横展開を想定しており、アパレル産業全体への波及効果が期待できる。

前田栄作ベンベルグ事業部長は「環境負荷低減はメーカーとしての責任だ。オンリーワン素材のプライドを持って取り組む」と力を込める。同繊維は綿実油の副産物を原料とするほか、生分解性の特徴、製造時に水力発電で発電した電気を使うなどの特徴を持つ。供給網も視野に入れたプロジェクトを進めることで、同繊維の環境価値に磨きをかける。

【東レ】100%植物由来の繊維/【ハイケム】生分解性繊維の品質向上

新たな環境配慮型繊維も相次いで登場している。東レは、原料ポリマーを100%植物由来としたナイロン繊維「エコディアN510」を開発。テキスタイル(織・編み物)は23年秋冬シーズン向けからアウトドア用途などで販売を始める。同繊維は湿度による形態変化が少ないため、寸法安定性に優れる。

化学品の輸出入販売などを手がけるハイケム(東京都港区)は、トウモロコシを原料とし、生分解性を持つPLA繊維「ハイラクト」を開発した。老舗テキスタイルメーカーの小野莫大小(メリヤス)工業(同江東区)と業務提携し、樹脂原料から生地まで一貫して管理し、繊維品質を高めた。

【グンゼ】工場のCO2ゼロ

一方、グンゼは工場からの二酸化炭素(CO2)排出を削減し、製品の環境負荷低減を訴求する。24年までにアパレル事業の基幹拠点である梁瀬工場(兵庫県朝来市)を、CO2を排出しない「ネットゼロファクトリー」に転換する。化石燃料消費設備の電化や太陽光発電設備の導入などで達成する。同工場で培ったノウハウは、海外を含めた他工場にも展開する。また、梁瀬工場は生産自動化にも取り組み、環境・生産の両面で持続可能なモノづくりを実現していく。

世界2位の環境汚染産業から脱却を

アパレル産業は世界2位の環境汚染産業と指摘されている。環境省の資料によると、原材料調達から製造段階までに排出される年間の環境負荷の総量は、CO2排出量が約9000万トン、水消費量で約83億立方メートルに上る。服1着を生産するのに25・5キログラムのCO2を排出し、約2300リットルの水を消費している。

また、洋服約1億8000万着分に相当する約4万5000トンの繊維が服にならず、端材などとして捨てられている。

持続可能なアパレル・繊維産業の実現に向けて、最後のカギを握るのは消費者だ。生産側は環境に優しい製品であることを消費者にしっかり伝え、消費者も理解し、納得して選ばれるようになっていく必要がある。

日刊工業新聞2022年2月1日

編集部のおすすめ