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EV競争力の中核「全固体電池」で日本は中韓勢を巻き返せるか

EV競争力の中核「全固体電池」で日本は中韓勢を巻き返せるか

日産のリチウムイオン電池搭載の現行EV「アリア」。28年度に全固体電池搭載のEVを投入する計画

次世代電池の最有力候補である全固体電池の開発競争が熱を帯びている。自動車業界ではトヨタ自動車日産自動車が2020年代の実用化を公表。これにフォルクスワーゲンなど独勢が対峙(たいじ)する。他業界でも自社の基盤技術を応用した電池開発が加速しているほか、電池の性能を決める素材分野などでも日本勢の動きが目立つ。現行のリチウムイオン電池では中韓勢が高シェアを占めるなか、日本勢は次世代電池で巻き返しを図れるか。(特別取材班)

日産・トヨタ・ホンダ…研究着々

「電気自動車(EV)のゲームチェンジャーとなる全固体電池の開発を進める」。日産のアシュワニ・グプタ最高執行責任者(COO)は全固体電池をEV競争力の中核に位置付ける。

日産は全固体電池の開発に1400億円を投入する。24年度に横浜工場(横浜市神奈川区)に試験ラインを導入して量産技術を確立し、28年度に同電池を搭載したEV投入を計画する。グプタCOOは同電池を「仏ルノーや三菱自動車との企業連合にも段階的に広めていく」とし、3社の競争力底上げも期待できる。

現行の液系リチウムイオン電池では液漏れの可能性や使用温度範囲の狭さといった課題がある。日産は全固体電池で液系の弱点を解消し、冷却機構の簡素化などで電池コストを1キロワット時当たり65ドルまで下げる。内田誠社長は「EVとガソリン車の車両コストを同等レベルまで引き下げ、EVの本格普及につなげる」と意気込む。

トヨタは20年代前半にハイブリッド車(HV)で全固体電池の実用化を目指す。20年に走行試験を実施し、前田昌彦執行役員は「走行データを取得できる段階にきた」と手応えを得る。HV後の展開を想定するEVでは、佐藤恒治執行役員が高級車ブランド「レクサス」で「全固体電池の搭載も視野にハイパフォーマンスEVを実現する」とした。ホンダは21年度に実証ラインで同電池の生産技術の検証に着手。20年代後半のEV搭載に向け研究を進める。

欧米勢ではVWが米クアンタムスケープと25年までに全固体電池の生産ライン確立を計画。独BMWと米フォード・モーターは米ソリッド・パワーに出資するなど、協業をテコに全固体電池の開発を加速する動きが相次ぐ。名古屋大学の佐藤登客員教授は「EVシフトを急拡大する欧米の完成車メーカーは、現行の液系リチウムイオン電池の確保が喫緊の課題だ」とし、全固体電池では「米国系ベンチャーに出資して様子をうかがっている」と分析する。

韓国LG化学や中国の寧德時代新能源科技(CATL)などの大手電池メーカーも全固体電池の開発に取り組む。ただ、佐藤客員教授は「全固体電池の実用化のハードルが高い中、液系リチウムイオン電池の事業強化に躍起になっている。CATLも今の液系リチウムイオン電池事業に力を入れて覇権を握ろうとしている」と見る。

「全固体電池は寿命が短いという課題が見つかった」。トヨタの前田執行役員はこう指摘し、固体電解質の材料開発を続ける意向を示す。生産面では厳格な水分管理が求められるなど量産技術の確立も課題とされる。10年にEV「リーフ」を投入し、EVの先駆者を自認する日産。内田社長は量産などの課題解決に向け「これまで頑張ってきた証を見せないといけない」と覚悟を示す。

【政府の強化策】「高性能化・温暖化対策・再利用」流れ作る

車載用を中心とする電池の需要拡大を念頭に政府は研究開発体制を強化している。次世代電池やモーターに関する10年間の研究開発プロジェクトを21年度から開始。民間の開発を後押しする「グリーンイノベーション基金」から、最大1510億円を拠出する。

背景には市場拡大とともに世界での急速な勢力図の変化に対する危機感がある。日本勢は16年にリチウムイオン電池で約4割のシェアを占めていたが、近年は中国・韓国勢の存在感が高まってきた。研究開発プロジェクトは蓄電池の高性能化から、製造時の温室効果ガス排出削減やリサイクルに至るまでの流れを各国に先駆けて構築する構えだ。

研究開発や生産基盤の強化は産業競争力にとどまらず、経済安全保障でも欠かせない論点だ。政府は半導体や医薬品などと同様に蓄電池を戦略物資に位置付け、需給が不安定化した際にも自国で一定水準を確保する構想を描く。シェア争いに固執した状況から抜け出す意味でも、研究開発を通じた独自の優位性を発揮できるかがカギとなりそうだ。

日刊工業新聞2022年2月9日の記事から一部抜粋

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