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燃料転換・クレジット創設、岩谷産業が展開する「脱炭素」事業の仕組み

燃料転換・クレジット創設、岩谷産業が展開する「脱炭素」事業の仕組み

岩谷産業はLPGなどへの燃料転換で削減したCO2排出量を価値化するクレジットプロジェクトを創設した(LPG供給設備)

岩谷産業は顧客が削減した二酸化炭素(CO2)排出量を算定してとりまとめ、環境価値として別の顧客などに提供するための「Iwatani J―クレジットプロジェクト」を創設した。加えて、CO2排出量可視化サービスを展開するゼロボード(東京都港区)との協業も開始。二つの取り組みを合わせて、製造業などの顧客のCO2排出量削減を総合的に支援し、「脱炭素」を事業として展開する構えだ。(編集委員・錦織承平)

岩谷産業は工場などの事業所で重油や灯油を使う顧客に対する液化石油ガス(LPG)や液化天然ガス(LNG)への燃料転換で年間100件程度の実績を持つ。「1件当たりの平均CO2削減量が100トン程度としても、まとめると相当な量になる」(臼井正太産業エネルギー部副長)という。

1月に創設したクレジットプロジェクトは、国のJ―クレジット制度を活用したもので、岩谷が提案する燃料転換などに応じた顧客のCO2排出量を算定し、とりまとめて国に申請してCO2排出削減量をクレジットとして価値化する。顧客はCO2削減量をプロジェクトに提供する対価として岩谷から機器メンテナンスなどのサービスを受ける。

臼井副長によれば「中小企業などは燃料転換による燃料費の低減には関心が高いが、減らしたCO2排出量の活用までは関心が向いていないことが多い」という。中小企業などは岩谷のクレジットプロジェクトに入会すれば、クレジット申請などの手間やコストをかけずにCO2排出量削減の取り組みに参加でき、岩谷から機器メンテナンスなどのサービスも受けられる。

一方、岩谷はクレジットプロジェクトで集めたCO2排出削減量をクレジットとしてLPGやLNGなどの商品に組み合わせて大手企業などに販売できる。岩谷産業未来創造室の沢根範憲氏は「中小企業の埋没した価値を顕在化して、還元できる」と取り組みの意義を強調する。夏ごろにもこうした商品の販売を始める考えだ。

さらに岩谷は顧客のCO2排出量を効率よく算定して、可視化するクラウドサービスを展開するゼロボードとの協業を始める。岩谷が全国に持つガス販売網と顧客基盤を生かして、ゼロボードのサービスを大手企業中心に提案。複数の拠点を持つ大手企業のCO2排出量をまとめて可視化し、CO2排出量削減の計画立案や削減策提案といったサービスにつなげる。岩谷の燃料販売データなどとゼロボードのサービスを結びつければ、顧客のCO2排出量算定作業も大幅に減らせる可能性があるという。

 岩谷は大手企業向けの提案で得たCO2排出量削減のノウハウを中小の顧客の排出量削減にも生かし、クレジットを増やす好循環をつくる狙いだ。
日刊工業新聞2022年2月3日

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