水素事業に600億円、岩谷産業の財務戦略に死角なし!?
岩谷産業は2021―23年度の中期経営計画期間に、前中計実績比39・1%増の1500億円を投資する計画だ。このうち、水素関連に600億円を投じる。国内や米国で水素ステーションを増やすほか、海外の二酸化炭素(CO2)フリー水素の製造拠点なども設ける。ここ数年で財務体質の改善が進んでおり、一連の投資は利益と減価償却費の範囲内で行う方針。必要に応じ借り入れやグリーンボンドによる資金調達も検討していく。
中計最終年度23年度の経常利益は20年度比16・3%増の400億円が目標で「中計の投資計画を支える上でも重要だ」(松尾哲夫常務執行役員)。15年度以来6年連続で最高の経常・当期利益を更新しており、さらなる成長を目指す。
97年度に2272億円だった有利子負債は利益積み増しなどで20年度に961億円まで削減、財務体質は改善している。20年10月には新株予約権付社債を普通株式に転換し資本金を150億円増の350億円に増資。自己資本比率は08年度の14・8%から20年度に47・6%まで高まった。
20年度の自己資本利益率(ROE)は自己資本が増えたことで19年度の12・1%から10・9%に下がった。今後も投資拡大に向け自己資本を積むため、23年度目標は9・0%以上とする。数字としては下がるが、目先の株価のための自社株買いによるROE改善はせず「ガスを届けるというベース事業に投資して成長し、利益を上げる正攻法で臨む」(同)との方針だ。
投資を続ける水素関連事業は「水素の国内販売で約7割のシェアを握るものの、先行投資負担も大きく、利益への寄与はまだ小さい」(清水範一岩井コスモ証券シニアアナリスト)。ただ、政府が掲げる水素導入量目標に沿えば中長期の需要拡大は期待でき、LPガスの収益や産業ガスの販売増などで水素関連の投資をカバーしていく。現中計の投資計画は水素利用を広げるインフラ作りと、市場拡大をけん引するための先行投資。30年に水素1立方メートル当たりの価格を現在の約100円から30円程度まで引き下げる目標の達成にはさらなる投資とそれを支える財務政策が必要になる。