調和のとれた電磁的環境に必要な「EMC」とは?
現在、私たちは電気・電子機器に囲まれた便利で快適な社会・生活環境を享受している。しかしながら、これらの機器が電磁ノイズを放射し、または電磁ノイズに脆弱(ぜいじゃく)であればどうだろう。快適さは一転して、電磁ノイズによる機器の誤動作、機械の暴走、重要無線への干渉など重大な影響を生じかねない。
調和のとれた電磁的環境のため、電子機器には電磁環境適合性(EMC)と呼ばれる不要な電磁ノイズを出さない、かつ、規定の電磁ノイズレベルで正常に動作する能力が要求される。一般には、国際的な技術基準・規格を定め、製品試験によりその適合性を確認している。
情報通信研究機構(NICT)では、国際規格策定への寄与を含むEMCに関する測定・評価技術の研究開発を進めている。ここで、最近の重要なEMC国際規格とその規格に対応するため新たに開発したアンテナを例に挙げる。
近年ではスマートフォンのような携帯無線端末が隅々にまでいきわたり、電子機器の近くで使用されるケースも多い。もし医療電子機器の近くで携帯無線端末が発した電波により機器の誤動作が生じたら大変である。このような懸念から国際電気標準会議(IEC)は、携帯無線端末からの近接電波放射を想定した電子機器の電磁耐性基準を新たに定めた。
近接電磁耐性試験では、電子機器から非常に近い位置(10センチメートル)に設置したアンテナを移動させながら強い電波(最大300ボルト/メートル)を電子機器全面に照射し、誤作動が生じないかを試験する。携帯無線端末が利用する周波数帯をカバーするため、試験周波数範囲は380メガヘルツから6ギガヘルツ(ギガは10億)までと広帯域にわたる。
NICTが開発し、ノイズ研究所(相模原市中央区)との共同研究により製品化したTEMホーンアンテナは、試験周波数帯全域で利用が可能であり、アンテナ交換が不要、高効率な電波照射、広い電界均一場の生成など効率の良い近接電磁耐性試験が行える。
また、TEMホーンアンテナを使用した近接電磁耐性試験は、医療電子機器やマルチメディア機器などの製品を対象としたEMC国際規格への展開が期待されている。今後も、調和の取れた電波利用のため、得られた知見を活かし社会へ貢献していきたい。
◇電磁波研究所・電磁波標準研究センター 電磁環境研究室 有期研究技術員 張間勝茂 86年九州工大卒、同年郵政省電波研究所(現NICT)入所。以来、EMCに関する研究開発に従事。