自動運転技術を支える「GNSS」、その精度を低下させる“プラズマバブル”とは?
GPSなどに代表される全球測位衛星システム(GNSS=Global Navigation Satellite System)は私たちの生活のさまざまな場面で使われるようになってきている。スマートフォン上の地図アプリやタクシー配車アプリはこのGNSSをもとに成り立っている。また近い将来、自動運転技術においてもGNSSは重要な技術になると期待される。
しかしながら、宇宙の“プラズマバブル”という現象がGNSSの精度を低下させ、GNSS利用の障害となることがある。プラズマバブルは日本上空だけにとどまらないとても大きな空間スケールを持つため、国際的な連携が現象把握と障害低減のカギとなる。
高度300キロメートル程度の大気は太陽の極端紫外線などによって一部電離されイオンと電子に分かれプラズマと呼ばれる状態となっており、電離圏と呼ばれる領域を形成している。
この電離圏のプラズマには通過する電磁波に影響を与える性質があるため、高度約2万キロメートルの衛星からの信号を地上で受信するGPS測位は、電離圏の影響を色濃く受ける。
プラズマバブルとは、電離圏において周りに比べて極端にプラズマの密度の低い領域が発生する現象であり、GNSSの測位精度の低下を引き起こす。プラズマバブルは赤道域で発生し中緯度に向かって大きくなっていく。すなわち、日本が位置する東アジア域ではタイやベトナム、フィリピン上空で発生したプラズマバブルが成長し日本上空に向かってくる。その成長速度は早く、東南アジアで発生したものが数時間で日本の南部に到達することもある。
プラズマバブルによる障害の低減にはバブル発生の早期把握が必要である。したがって、日本に到達するプラズマバブルのその発生場所となる東南アジアでの電離圏の観測が重要となる。情報通信研究機構(NICT)では18年前から、SouthEast Asia Low―latitude IOnospheric Network(SEALION)プロジェクトを開始し、東南アジアで電離圏観測をリーダー的な立場で展開している。
2020年1月にはプラズマバブルの発生を捉えるのに最適な場所であるタイのチュンポンに新しいVHFレーダーを設置した。このレーダーの運用が、東南アジアや日本における高度なGNSSの利用を大きく進展させ、近い将来、自動運転技術の安全利用に貢献することが期待される。
◇電磁波研究所・電磁波伝搬研究センター 宇宙環境研究室 テニュアトラック研究員 穂積・コンニャナット 15年京大院博士課程終了後、京都大学生存圏研究所を経て、同年NICT入所。電離圏観測や電波伝搬シミュレーション開発の研究に従事。博士(情報学)。