宇宙・生命起源の謎に迫る、日本が挑む「火星探査」の現在地

  • 1
  • 5
フォボスでサンプリング装置を使い試料を採取している(イメージ=JAXA提供)

米国主導の国際宇宙探査計画「アルテミス計画」が進み、有人月面探査に向けた動きが加速している。その中で月の次に目指すべき場所である火星の探査にも注目が集まり、各国が次々と探査機を打ち上げている。日本も火星衛星探査計画「MMX」推進などの動きを見せており、探査機の開発などを進めている。各国が進める火星ミッションを追った。(飯田真美子)

探査機打ち上げ 大気・土壌など環境観測

火星は太陽系で地球から一番近い惑星であり、大気があるなど自然環境が地球に似ている。そのため以前は生命体が存在していたと予測されており、その痕跡をたどることで宇宙と生命の起源の謎に迫れると期待される。さらに火星の試料を調べられれば、地球環境の過去と未来を予測できる可能性があると見られる。

小型ヘリコプター「インジェニュイティ」が撮影した火星(NASA提供)

火星探査は世界中で注目されている惑星探査の一つ。これまでに米航空宇宙局(NASA)の探査機が数回火星に降りたっており、2021年には火星ローバー(探査車)「パーサビアランス」と小型ヘリコプター「インジェニュイティ」が火星に着陸して地表と航空の写真を撮影したことが話題となった。

他国を見ると、中国でも火星探査機「天問」1号が打ち上げられ21年に軟着陸に成功した。今後、探査車「祝融」で火星表面の土壌などを調査する予定だ。またアラブ首長国連邦の火星探査機「ホープ」は20年に日本の大型基幹ロケット「H2A」で打ち上げられ、話題になった。同機は火星の周回軌道から気象や大気などの下層大気の観測を進める。

大型宇宙船「スターシップ」。これまで何度か打ち上げ実験を進めている(スペースX提供)

民間からも火星は注目されており、米スペースXでは大型宇宙船「スターシップ」で人を火星に輸送するビジネスを検討している。同ビジネスを数十年以内に始め、人類の火星への移住計画を考案中だ。同社のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は「人類存亡の危機の可能性の最小化につながる」とコメントしている。

これまでに日本は98年に火星探査機「のぞみ」を打ち上げ、火星の上層大気や磁場などの観測をする予定だった。だが火星まで約1000キロメートルのところで探査機からの通信が途絶え、ミッションは失敗に終わった。それ以降は火星を目指した探査機は現段階でミッション化されていない。

サンプルリターン 有人探査計画の基盤に

一方で、火星の衛星である「フォボス」に向かいサンプルリターンを目指す計画であるMMXが進行中だ。24年に大型基幹ロケット「H3」で探査機を打ち上げ、25年にもフォボスに到着する予定。小惑星探査機「はやぶさ2」では小惑星「リュウグウ」の試料採取にタッチダウン(着陸)を採用していた。MMXでは直接フォボスに降りたって地表2センチメートルを掘って10グラム以上の試料を採取することが目標だ。探査機がフォボスに滞在できる時間は約3時間で、その間にミッションを遂行する。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の川勝康弘MMXプロジェクトマネージャは「はやぶさ2よりも多く試料を採取することを目指す」と意気込む。

火星衛星探査ミッションMMX(イメージ=JAXA提供)

フォボスの表土には、衛星が形成された後に火星から飛来した物質が降り積もっていると見られている。同ミッションで採取する試料からは、火星とその衛星の起源の解明につながる結果が得られると期待されている。これまでにロシアの探査機がフォボスを目指していたが、周回軌道に入れないなどの理由で計画を断念している。今回成功すれば世界初の快挙だ。

またフォボスは火星から近い位置にある衛星であり、国際宇宙ステーション(ISS)や月を周回する有人拠点「ゲートウェー」のように人が火星に降り立つまでの拠点の役割も担えると期待されている。MMXでの探査結果が今後の有人火星探査の基盤になる可能性が高いだろう。

ドローン開発 地下空洞探査、飛行技術カギ

火星本体への探査も考案されている。JAXAでは東北大学や東京都立大学、工学院大学などとの共同で火星探査用ドローンの設計が進んでいる。火星にある地下空洞を飛行探査することが目的で、30年代の実用化を目指す。NASAの火星ヘリコプターの3倍以上の距離を飛行できる設計になっており、1回の飛行で最長1キロメートル飛べる。

火星の重力は地球の約3分の1で、大気密度が小さいため地球の33倍の揚力が必要となる。そのためドローンの設計は難しく飛行は困難と考えられてた。研究チームはマルチコプターのようなドローンを設計。ローターの回転速度がマッハ1付近だと衝撃波で飛行できなくなる。だがこの形だとローターの回転速度が速くなっても衝撃波が発生しないことをシミュレーションで明らかにした。

現在は火星と同じ環境を装置内に作り、ローターの回転が維持できるかを試験している。JAXA宇宙科学研究所の大山聖准教授は「火星は地球上の環境とは全く異なる。環境に合った航空機を考えることが重要」と話す。火星本土への探査ミッションは、世界からも注目される。日本の宇宙開発の一層の促進にもつながる。

日刊工業新聞2022年1月4日

キーワード
火星 宇宙 NASA JAXA

関連する記事はこちら

特集