コロナが大打撃のJR西日本、公募増資2500億円断行で目指す変革
JR西日本は9月に約2500億円という巨額の公募増資に踏み切った。JRグループとしても初めてで、長期債務返済とコスト削減へ向けた成長投資を強化する。コロナ禍の鉄道利用減少に伴い、同社の2020年度決算は当期損益が2332億円の赤字を計上し、21年度も2年連続の赤字を見込む。増資で、傷んだ財務基盤を強化すると共に「構造改革を進め、仮に鉄道の利用が従来の9割になっても持続的な事業運営ができる会社」(長谷川一明社長)への変革を目指す。
鉄道や不動産など、大きな設備資産を扱う同社が経営指標として重視するのがROA(総資産利益率)とEBITDA(利子・税金支払い前、償却前損益)だ。18―22年度中期経営計画ではROA6%台半ば、EBITDA4000億円を目標に掲げ、着実に数字を積み上げてきた。
しかし20年度の運輸収入は、新型コロナウイルス感染症の影響で4194億円と前年度から半分以下に落ち込んだ。ROAはマイナス7・3%、EBITDAはマイナス708億円、加えて手元資金の確保のための借入金増額や社債発行により、D/Eレシオ(負債資本倍率)は1・8倍へ悪化した。厳しい事業環境のもと、20年10月の時点で中期計画の目標をROA4%程度、EBITDA3300億円に下方修正を余儀なくされた。
巨額の公募増資の最大の目的は、悪化したバランスシート改善のためだ。もちろん増資による総資産の増加はROAの下落要因ともなるが、中西豊常務は「成長する機会を(時期を逃さず)捉えるための投資」と見据える。調達資金のうち1700億円を成長投資、800億円を長期債務返済へ充て、各経営指標の新型コロナ前の水準への回復を目指す。
具体的には22年度末までに鉄道業務の生産性向上へ300億円を投じるほか、緊急対応として賞与見直しなどで、21年度は19年度比で1240億円のコスト削減を行う計画だ。
今後の感染状況は見通しにくいものの、広兼賢治野村証券リサーチアナリストは中期計画を「1年遅れで達成できる」と見込む。増資による財務基盤強化で「EPS(1株当たり利益)の希薄化を相殺できる成長をどの程度実現できるか」(同)に注目する。