酸化物型「全固体電池」実現に挑むNIMS、研究開発の今

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「使われてこそ材料」。物質・材料研究機構(NIMS)が掲げるこの理念に照らすと、信頼性や設計自由度の高いリチウムイオン電池を実現するために必須である固体電解質は、長らく「材料ではなかった」というべきである。リチウムイオン電池が誕生した1991年頃、全固体化に必要とされる1ミリジーメンスのイオン伝導度を持つ固体電解質がいくつか存在していた。

その中で、硫化物系材料は車載用途で開発が進められ、最近ではナンバー取得車両でテスト走行が繰り返されているという。「材料」に大きく近づいた硫化物系固体電解質に対し、酸化物系固体電解質を採用する固体電池は薄膜形状などの小型電池が報告されているのみで、その性能も材料物性から期待されるものに遠く及ばない。

科学技術が新しい価値を創出するとき、そこにはデバイス化や量産化などの「プロセス」が伴う。こうした観点で2019年度より文部科学省の支援で開始した「マテリアライズプロジェクト」は、マテリアルサイエンスが創出する物質を社会実装につなげるためのプロセスサイエンス構築を目的とするものである。

NIMSでは酸化物系固体電解質の性能を発揮させて実用的な電池を誕生させるべく、酸化物系材料の接合プロセスの研究開発を進めている。固体電解質の中でも硫化物系は高い可塑性を示し、材料間の接合が容易であるが、酸化物系はほとんど可塑変形を起こさず、高温焼結などの接合プロセスが不可欠となる。

この酸化物系では焼結させると材料間の接合面積は増大し、強固に接合するようになる反面、電極・電解質間では元素の相互拡散により異相が生じ、抵抗が高まってしまう。接合プロセスのこのジレンマは熱力学やイオン拡散などが複雑に絡み合うものであるため、マルチスケールのその場観察や計算科学、データ科学などのあらゆる手法を駆使し、その解消を目指している。

ミッションの一つは、構築したサイエンスに基づいて社会実装につなぐための新たな設計指針と道筋を提示する「産学官からの相談先」の実現である。化学的に安定で扱いやすい酸化物系固体電解質を使用する全固体電池には広い用途が期待できることから関心を寄せる企業も多く、NIMSは企業10社が参加する「全固体電池マテリアルズオープンプラットフォーム」を発足させた。プロジェクトを通じ、酸化物系固体電解質を「材料」とする産学官連携の礎を築き上げていく。

物質・材料研究機構(NIMS)エネルギー・環境材料研究拠点 拠点長 高田和典
1986年大阪大学大学院博士前期課程修了。同年松下電器産業(現パナソニック)入社。91年博士(工学)(大阪市立大学)。99年無機材質研究所(現NIMS)に入所。特別研究員を経て、18年より現職。

日刊工業新聞2021年11月17日

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