「グリーンインフラ」に普及の兆し。ESG金融の隆盛を追い風に“開花”なるか

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グリーンインフラは人々の暮らしを守り、安らぎを与えてくれる(東急不動産と鹿島の開発事業会社が建設した「東京ポートシティ竹芝」)

自然が持つ機能を防災や温暖化対策、地域振興などに役立てるグリーンインフラに普及の兆しが“芽生え”始めた。1100団体が参加する国土交通省の推進組織が、企業や市民の資金を活用したグリーンインフラ整備の手法を整理した。頻発する水害、ESG(環境・社会・企業統治)金融の隆盛、地元企業の地域貢献意欲などの要素が重なり合い、グリーンインフラは開花の時が迫る。(編集委員・松木喬)

滋賀県東近江市、清流取り戻す

滋賀県東近江市で今秋、市民が出資した資金で地元を流れる愛知川の自然を再生する事業が展開された。税金で賄われる河川整備に民間資金が使われるのは珍しい。

この事業は地域ファンド「東近江三方よし基金」が企画し、資金調達にソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)と呼ぶ金融手法を活用した。SIBは企業や個人から集めた資金で公的サービスを提供する事業者を支援する仕組みだ。

東近江三方よし基金は10月上旬、出資を募る説明会を開いた。基金の山口美知子事務局長は「増水のニュースがあって怖い場所と思われるかもしれないが、川は生活の身近にある。住民や企業に関心を持ってほしい」と訴えた。住民や企業は出資者になることで地元の川に愛着を持つきっかけとなる。10月末までに計46の出資者から220万円が集まり、地元のNPOと漁業協同組合が、魚の泳ぐ場所などを整備した。

東近江市の事業はグリーンインフラ整備に民間資金を活用する先進事例として注目されている。グリーンインフラとは、自然が持つ多様な機能を社会資本整備に活用する考え方だ。緑地があると植物の根や土が水をたくわえるので、豪雨による洪水を防げる。森林が防波堤の役割を果たすと、高潮から人命を守る。

他にも気温が上昇するヒートアイランド現象の緩和、緑地を目当てに人が訪れる誘客など環境や経済での効果も見込める。

都市部にもグリーンインフラが登場している。2020年に開業した40階建て複合施設「東京ポートシティ竹芝」(東京都港区)は、2―6階のテラスの木々が葉を茂らせており“緑の丘”のように見える。この緑地がグリーンインフラとなっており、600立方メートルの雨水をためられる。

地下にも800立方メートルの水槽があり、ビル全体で1400立方メートルを貯水できる計算だ。豪雨の発生時、緑地が雨水を吸収するため道路が冠水するまでの時間を遅らせて都市水害を軽減できる。また、豊かな緑はビルで働く人に癒やしも与える。

投資環境整える

国もグリーンインフラに期待しており、国土交通省は20年、「グリーンインフラ官民連携プラットフォーム」を設立した。企業を含む1100団体が参加し企画・広報、技術、金融の三つの部会で普及策を検討している。

金融部会はSIBのほかにも、環境事業の資金を調達するグリーンボンド(環境債)、インターネットで資金を募るクラウドファンディング(CF)、ふるさと納税をグリーンインフラ事業に呼び込む金融手法などを整理した。環境債はESG投融資として盛り上がっており、国内発行額は年1兆円を超えている。現状は企業が再生可能エネルギー事業や設備更新の資金調達を目的に発行しているが、グリーンインフラも資金使途となる。SIBやCF、ふるさと納税は地域での事業に向く。地元企業や住民でも少額出資で事業を支援できるため、地域の関係者もグリーンインフラ事業に参加意欲を持てる。

課題となるのが効果の評価方法だ。グリーンインフラが防災機能を発揮すれば災害による経済損失を減らし、堤防建設などの公共事業費を抑制できる。また、訪ねる人が増えると地域の商店が恩恵を受ける。水害が少ない地域は地価上昇や企業誘致にもつながる。

しかし、いずれも定量化が難しく、企業は効果が不透明だと投資判断をしにくい。そこでプラットフォームの技術部会は評価方法を検討してきた。国交省は今後、自治体と連携して金融や評価の手法を活用したグリーンインフラ整備を実践する。同省総合政策局環境政策課の和田紘希課長補佐は「社会実装のモデルを作る。地域の建設コンサルタントや金融機関、企業など、多くの主体を巻き込みたい。民間もグリーンインフラに参画することで利益も享受でき、地域の活力を向上できる」と意気込む。

同省は理解の促進にも取り組む。行政や企業、住民の合意形成がなければグリーンインフラ整備に着手できない。案件によっては複数の自治体が関係するため調整の労力が必要となる。和田課長補佐は「脱炭素は企業価値につながる共通理解ができたから、国と産業界の歩調が合った。グリーンインフラも国民全体の理解を得ることができたら、調整が進みやすい」と見通している。

地域貢献PR 企業も積極参加

海外では民間資金を活用したグリーンインフラ導入が動きだしている。米アトランタ市は19年、環境インパクトボンドと呼ばれる債券を発行し、雨水をためるグリーンインフラを整備した。この案件に詳しい日本政策投資銀行ストラクチャードファイナンス部の北栄階一課長によると、効果を定量的に測定し、目標を上回ると投資家に追加ボーナスが支払われる仕組みだったという。「インパクトが明確で(効果が)可視化された。大規模な事業であり、安定したリターンが得られるので投資家から支持された」としている。実際、投資家4者から1402万ドルを調達できた。

アトランタ市が投資家から集めた資金で整備したグリーンインフラ(政投銀・北栄課長提供)

日本でも民間資金が活用された例がある。長野県は20年と21年に環境債を起債して合計150億円を調達し、一部を河川改修の費用に充てた。環境債は県外の投資家のほか、多くを地元企業が購入した。「地域の価値を高めることなので、地元企業もメリットを感じられる」(北栄課長)。もちろん投資表明によって地域貢献もPRできる。

民間資金を活用した成功モデルが生まれると、グリーンインフラの普及が進みそうだ。国交省が整理した金融と評価の手法を使った第1号案件の開始が待たれる。

日刊工業新聞2021年12月17日

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