チャールズ英皇太子も来館、「鉄道王」が遺した宝を収蔵する美術館の正体

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重要文化財 鈴木其一「夏秋渓流図屏風(左隻)」(日本・江戸時代 19世紀 根津美術館蔵)12月19日まで開催中の重要文化財指定記念特別展より

かつて茶会は重要な社交の場であり、現在でも実業界に茶人は多い。東武鉄道などの社長を務め「鉄道王」と呼ばれた根津嘉一郎は、若いころから古美術を熱心に集めた。晩年、自ら青山(せいざん)と号して茶の湯にいそしむようになると、茶道具の収集に一層心を傾けたという。

そうして集めた一級品の数々を世に公開したいという根津の遺志を継ぎ、長男が1940年に財団法人を設立。翌年、南青山の私邸跡に根津美術館を開館した。現在は孫の根津公一東武百貨店名誉会長が館長を務める。2009年には隈研吾氏の設計により新本館がオープンした。4棟の茶室が点在する広大な庭園は今、紅葉(もみじ)が見頃を迎えている。

国宝7件、重要文化財(重文)88件、重要美術品94件を含む日本と東洋の古美術約7600件を収蔵しており、絵画、書跡、青銅器、茶の湯の美術など、そのジャンルの幅広さは他に類を見ない。茶道具と並ぶ収集のもうひとつの柱が仏教美術で、嘉一郎は大寺の建立を目指していたそう。豪快な収集で知られたが、「日本の宝は海外に流出させたくない」との強い思いがあり、これを“美術報国”と表現した。

1909年に渋沢栄一率いる「渡米実業団」の一員として訪米し、米国のフィランソロピー(社会貢献活動)の文化に触発されたようだ。私立の美術館として屈指の作品数と質を誇る同館はコレクターから寄贈されることも多く、コレクションは増え続けている。

現在は、昨年重文に指定された江戸琳派の鬼才・鈴木其一の代表作などを展示中。毎年初夏に庭園のカキツバタが見事な花を咲かせるが、これに合わせて尾形光琳の国宝「燕子花図屏風」を展示するなど、年7回の展覧会は季節感に富む。茶室ではさまざまな流儀の茶人による茶会が開かれ、経営者らが席を持つ「現代茶人の茶席」は個性的で大いに盛り上がる。

【メモ】開館時間(通常)=10―17時▽休館日=月曜日(祝日の場合は翌日)など▽入館料=オンライン予約制▽最寄り駅=東京メトロ銀座線ほか「表参道駅」▽住所=東京都港区南青山6の5の1▽電話番号=03・3400・2536

日刊工業新聞2021年12月10日

COMMENT

藤木信穂
編集局調査管理部
記者

大林組の大林剛郎会長やサンヨー食品の井田純一郎社長など、茶道をたしなむ経営者は少なくない。日本人としてグローバルに活躍しているからこそ、伝統文化に対する意識も高いのだろう。両者とも「現代茶人の茶席」で茶席を持ったことがある。コロナ禍の現在、茶室の貸し出しや茶会が行われていないのは残念だ。都心で素晴らしい日本庭園が見られることから、外国人観光客にも人気。賓客も多く、即位の礼の際はスウェーデン国王やチャールズ英皇太子が訪れた。

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根津美術館 美術館

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