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製紙業界が3年ぶり値上げラッシュ、従来とは違う背景事情

製紙業界では約3年ぶりの値上げラッシュとなっている。印刷・情報用紙は日本製紙を皮切りに、大王製紙、三菱製紙、中越パルプ工業などが15%以上、段ボール原紙はレンゴーがキログラム当たり10円以上の引き上げを表明。印刷・情報用紙は、コロナ禍が拍車をかけた需要減の中での価格改定とあって「印刷大手など顧客らに受け入れられるにしても、来春まで交渉は長引く見通し」(流通関係者)のようだ。

「値上げは粛々とやり切る。営業員がユーザーに一生懸命訴えている最中だ」。大王製紙の若林頼房社長は、2022年1月21日出荷分からの15%以上値上げに強い決意を示す。同社は21年度連結の売上高、経常利益とも過去最高を見込むが、22年度以降を視野に生産コスト上昇は看過できないとしている。

各社の値上げの背景は従来とは違う。原燃料価格の高騰や物流費上昇、円安の進行などは大きいが、少子・高齢化やIT化による構造的な需要減が深刻。

日本製紙連合会がまとめた10月の国内出荷量(速報)で印刷・情報用紙は前年同月比4・4%減。緊急事態宣言などが解除されたにもかかわらず、小売店のチラシ類やオフィスでの紙需要は戻らなかった。コロナ禍前の20年実績の8割程度の水準が続く。

さらに50年に向けた脱炭素化が重要課題に浮上し、ボイラでの石炭利用などが少なくない製紙業界。強力な対策が迫られ、将来的なコスト負担は増す。家庭紙への構造転換や固定費削減など企業努力ではコスト上昇を吸収しきれず、安定供給が続けられない切迫感がうかがえる。

堅調な通販向けなどの段ボール原紙はともかく、印刷・情報用紙の値上げは“もろ刃の剣”だ。社会全体のコスト増で値上げへの理解は進む一方、需要の落ち込みが加速しかねない。産業界のデジタル変革(DX)はとどまるところを知らない。こうした中、王子ホールディングス(HD)や北越コーポレーションが追随するかが注目される。

日刊工業新聞2021年12月6日

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