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製紙業界に迫られる大変革、ペーパーレス化にコロナがダメ押し

製紙業界に迫られる大変革、ペーパーレス化にコロナがダメ押し

新型コロナウイルス関連のデマによりドラッグストアの店頭からトイレットペーパーが姿を消した

製紙産業が大変革期を迎えている。コロナ禍で印刷・情報用紙需要が落ち込んだことが主因だが、国内紙市場は長期的な縮小傾向にあり環境は厳しい。コロナ禍によるテレワーク(在宅勤務)推進を背景に政府が企業に求める「脱・ハンコ」「ペーパーレス化」も追い打ちをかける。今後さらなるマーケットのシュリンクが危ぶまれる中、製紙各社は国内の印刷・情報用紙などに頼る収益構造からの転換を模索。産業の“ゲーム・チェンジ”が加速している。

「在庫が足りないという状況は一切ない」。新型コロナウイルスの感染拡大が続く3月、日本製紙連合会の矢嶋進会長(当時)はこう訴えた。会員制交流サイト(SNS)上の誤った情報を発端に買いだめの動きが広がり、一時トイレットペーパーなどの衛生用紙が店頭から姿を消した。

1970年代のオイルショックをほうふつとさせる社会現象を引き起こした新型コロナは、製紙業界の需要構造にも大きな変化をもたらした。経済活動の停滞に伴う印刷・情報用紙の低迷に加え、テレワークの浸透でオフィス需要が大幅に減少。イベント中止で商業印刷需要が蒸発した。

苦境の中、各社は収益性の高い事業に経営資源のシフトを進め、王子ホールディングス(HD)や大王製紙、三菱製紙はマスクの生産能力を増強。日本製紙は抗ウイルス性能を持つ変性セルロースを開発した。海外に活路を求め、レンゴーや王子HDは東南アジアなどで段ボール生産を強化する投資拡大に動いた。一方、需要低迷を背景に王子HD子会社が江別工場(北海道江別市)のパルプ製造の撤退、日本製紙が釧路工場(同釧路市)の紙・パルプ製造の撤退を発表した。

同連合会の野沢徹会長は「(紙の需要が)コロナ前に戻るかというとなかなか厳しい」とアフターコロナを予測する。今後はビジネスモデルや技術革新などを意識した上で需要環境を見極めることが重要な視点となる。新時代の幕開けとなるか、さいは投げられた。

日刊工業新聞2020年12月10日

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