月次統計でよく見る「季節調整」ってなに?
経済産業省では、製造業等の生産活動状況を表す鉱工業指数や、第3次産業活動の状況を表す第3次産業活動指数等を作成し、毎月公表している。
経済活動に関する統計は、人間の活動に直結していることから、人間の活動の周期性や規則性が統計の数値にも如実に表れてくる。
特に、人間の活動は1年単位で規則性・周期性を持つことが多いことから、鉱工業指数や第3次産業活動指数などの月次で公表される統計からは、1年周期での規則性・周期性を読み取ることができる。
下記のグラフは、製造業等の生産状況を表す「鉱工業生産指数」、第3次産業の活動状況を表す「第3次産業活動指数」、家計支出を表す「家計調査」、建築物の着工数を表す「建築着工統計」と、分野の異なる経済統計だ。これらは、分野が異なるため、動きはそれぞれに違うが、各グラフの2015年から2019年について、月ごとの波形を見比べてみると、どの統計も、1年単位で類似した波形が繰り返されていることが分かる。
他方で、2020年については、各グラフとも、他の年と波形が異なっているが、これは、2020年が新型コロナ感染症拡大の影響で、通常の年とは異なる活動状況になったことに起因する。
経済統計は、年ごとで類似した動きを示したり、特殊な経済変動で動きが大きく変わったりと、様々な様相を示すが、なぜそのようなことが起きるかについては、経済統計をいくつかの変動要因に分解することで説明をすることができる。
経済統計の動きを、「傾向変動」、「循環変動」、「季節変動」、「不規則変動」の4つの変動に分解できるという考え方があり、それぞれの変動は、以下の通りとなる。
1年単位での周期的な動きは、季節変動によるものであり、通常、季節変動が最も強く表れるため、統計の動きでもこの周期性をはっきりと見ることができる。
また、今回の感染症拡大の影響による変動は、不規則変動に該当し、大きな経済ショックが起きた場合には、かなりはっきりとその動きを把握することができる。不規則変動という名称から分かるとおり、規則性のない変動だが、大数の法則に従い、長期間に渡り不規則変動を観測すると、その平均はゼロに収束すると言われている。
季節調整とその使い方
経済統計を見る場合、その目的は様々だが、経済や景気の動向を把握することを目的とする場合が多いと考えられる。
その場合、傾向変動・循環変動については、長期間で経済規模等が拡大・縮小している、経済が上昇・下降トレンドに入っているということが分かるため、経済・景気の動向把握のためには必要な要素と言える。
また、不規則変動については、経済変動が直接引き金になって起こるものであるため、不可欠な要素だ。
他方で、季節変動については、例えば3月は決算期の最終月のため、4月に比べて必ず高くなる。経済・景気の動きよりは、社会的慣習などで起こっている場合が多いため、経済・景気の動向把握の観点からは不向きな変動と言える。
そのため、経済統計の原数値から、季節変動だけを取り除いた「季節調整済値」が作成されていることが多く、経済・景気の動向を見る場合には、季節調整済値を使う方が適している。
下記のグラフでは、鉱工業生産指数について、原指数(季節変動を含んだ指数)と季節調整済指数(季節変動を取り除いた指数)を比較している。季節調整済指数は原指数と比べ滑らかになっており、感染症拡大の影響(2020年5月)やその後の回復過程をはっきりと読み取ることができる。
生産の変化
季節調整は、季節性を取り除くために行うが、この過程で、各月の季節成分(年平均に比べ、各月が何パーセント生産等が多い・少ないかを表す指標)を抽出することも可能だ。
下記のグラフは、鉱工業生産指数(製造業等の生産水準を表す統計)について、バブル経済崩壊前の12年間(1979~1990年)、リーマンショック発生直前までの12年間(1997~2008年)、リーマンショック発生以降の12年間(2009~2020年)の各期間について、各月の季節成分の平均を比較したものだ。
期間によって、季節成分が大きく異なる月があることが分かるが、国内産業の生産の動きが、過去と比べ変化してきていることを、これによって把握することができる。