接客のVR訓練システム。産総研がロイホと実現した「気配り」能力の定量評価
産業技術総合研究所の大槻麻衣主任研究員と大隈隆史研究チーム長は、仮想現実(VR)でレストラン業務をトレーニングできるシステムを開発した。体験者は店員となり、客の来店からメニューや料理の提供、テーブルの片付けなどを各テーブルで同時多発的に処理することを求められる。作業の優先順位判断や客の状況の気づきを評価し、訓練できる。忙しい店舗では実地指導が難しかった。気配りや判断の確かさをVRで定量評価する。
飲食サービスの接客の流れをVR化した。来店から席への案内、メニューや水、料理の提供、下げ膳、テーブルのセットアップなど、一連の作業を複数のテーブルで片付けていく。接客応対中に料理が完成するなど、同時平行で物事が進むため、体験者が決められた優先順位で判断できているかを評価できる。
テーブルに提供された料理は刻々と減っていく。食事の進み具合を見ながら、下げ膳など次の作業の準備ができるか、緊張感をもって訓練できる。食べ終わるペースは調整可能。現実には食事に15―20分程度かかるが、訓練用に数分に短縮することもできる。
既存のVR訓練システムは、サービス全体をVR化するとコンテンツ制作費が膨らんでしまうため、危険作業など特定部分を抜き出して費用対効果を高めるものが多い。今回、一連の流れをVR化したため、判断など定量化の難しかった能力を評価できる。今後、効果的なVR訓練の設計仕様などをまとめ、VR訓練やサービスの質向上につなげる。
仮想空間「メタバース」で働く環境が広がるとサービスの品質評価などが重要になる。内閣府の大型研究支援事業「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)として実施した。ロイヤルホールディングスのファミリーレストラン「ロイヤルホスト」の協力を得た。
日刊工業新聞2021年12月2日