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日本初の段ボール事業会社のトップが日本の企業に鳴らす警笛

レンゴー会長・大坪清氏
日本初の段ボール事業会社のトップが日本の企業に鳴らす警笛

レンゴー会長・大坪清氏

商社に入社してわずか2カ月で製紙会社に出向し現場を渡り歩いた。その後レンゴーに転じて20年間社長を務め、今も会長兼最高経営責任者(CEO)としてグループ全体ににらみをきかす。経営トップとしての長い経験で痛感したからこそ、今の日本の企業に警鐘を鳴らす。

「米・レーガン以降の新自由主義、ミルトン・フリードマンのマネタリズム、そして金融資本主義。日本はこれらに侵されてしまった。伝統的な文化や慣習を見直し、日本型経営に戻らねばならない」

レンゴーは創業者が日本で初めて段ボール事業を始めた歴史ある会社。もちろん段ボールではトップだが、これでは限界があると感じ、社長に就任するとともに積極的に事業を拡大する。段ボールを軸に川上の製紙、川下の紙器、紙器に入る軟包装、自動車部品などの重包装、さらに海外事業と六つのコア事業を確立した。この戦略が奏功し、グループ全体の売り上げは社長就任時の2倍以上に拡大した。

商社時代からのポリシーである現場主義は一貫して変わらない。

「すべての基本は現場にある。しかし意外と現場を知らない経営者が多い。製紙から包装までの一連の流れを理解する人材は少なく当社でも私ぐらい。自分は経済学部出身だが機械、化学、電気の3要素を一通りマスターした。この3要素を理解しないとメーカー経営はできない」

親分肌のため、社業と並行して各種団体の長としての肩書も多い。特に関西生産性本部の会長職は14年にも及ぶ。生産性についての考え方も明確だ。

「生産性の3原則である雇用の維持・拡大、労使協調、成果の公正配分を守ること。ただし、単なる生産性ではなく『全要素生産性』を重視すべきだ」

2008年のリーマン・ショック時に多くの日本企業が「派遣切り」に走った。しかしレンゴーは、その逆に派遣社員全員を正社員化した。年間人件費は数億円増加したが、工場のロス削減などの成果で「人件費の増加分をカバーして余りある」ほどの効果が出た。これも「そもそも人件費を費用として考えること自体が間違い」との理念が背景にある。

長い経験から経営者として重要なことは「道徳、倫理、哲学、感情、そしてシンパシー」という。好きな言葉は「有道得財 和気生財」。財を得るに道あり、気を和して財を生めということだ。これを座右の銘に「日本型経営」に磨きをかける。(大阪・嶋崎直)

【略歴】おおつぼ・きよし 62年(昭37)神戸大経済卒、同年住友商事入社。96年常務繊維本部長、97年欧州総支配人・欧州住友商事社長。00年レンゴー社長、14年会長兼社長、20年会長兼CEO。大阪府出身、82歳。
日刊工業新聞2021年11月9日

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