東海道新幹線を縁の下で支える。「光ファイバー式警報トロリ線」20年プロジェクトの全容
日立金属がJR東海と共同開発した東海道新幹線向け「光ファイバー式警報トロリ線」が順次導入されている。車両に電力を供給するトロリ線が摩耗していないか検知するため、初めて光ファイバーを用いた。検討から開発、製作、架線に至るまで約20年に及ぶ大プロジェクト。線の張り渡し作業は2022年から本格化する。遠隔での瞬時の摩耗把握の仕組みは、日本が誇る安全で超高速の大量旅客輸送を縁の下で支えることになる。(編集委員・山中久仁昭)
日立金属は鉄道向け電線分野を手がけており、その最先端が光ファイバー検知線入りのトロリ線。21年初頭から順次導入されており、JR東海の導入費は約88億円に上る。
トロリ線は超高速走行と過密ダイヤの下、車両上部のパンタグラフと接触するため摩耗には目を光らせる。光ファイバーがセンシングの役割を担うため摩耗を24時間・365日監視し、地震など自然災害時のトラブルなども迅速に検知する。
光ファイバーはトロリ線の摩耗限界とされる位置にあらかじめ挿入。摩耗があれば光ファイバーが断線し、摩耗位置を特定できる。
1989年に開発された従来の新幹線トロリ線は検知用にメタル線を埋め込んだ。流れる電流の有無で摩耗を確認するためノイズ発生は天敵で、深夜にしか検知できなかった。
今後想定される労働生産人口の減少に備え、JR東海からはメンテナンスの容易さや工数削減を求める声が高まっていた。異常検知やその後の対応の迅速化が不可欠。摩耗したら張り替えれば良いが、断線してからでは遅い。過密ダイヤで停止や遅れは許されない。
JR東海新幹線鉄道事業本部電気部の有元尚史電力課長は「トロリ線の摩耗進行の常時監視が可能となった。監視システムが次世代型に進化し、設備の安全性がさらに高まる」と評価している。
トロリ線は電車の電車たるゆえんの最重要パーツ。日立金属は従来も、新たな耐摩耗材料を開発してきた。高速の走行環境では、相反関係にある高張力化と軽量化の両立も課題だったが、技術の積み重ねでクリアした。
製品開発面では、張力がかかるトロリ線に光ファイバーを挿入する際は脆性のある光ファイバーにいかに負荷をかけないかが決め手。形状面の工夫とすき間の調整で、二つの線の同時加工・挿入に成功した。機能部材事業本部茨城工場の蛭田浩義氏は「架線作業などに立ち会いニーズを探り、顧客と対話を続けてきた」と強調する。
日立金属は検知状態の中央監視システムなども担当。JR東海、工事会社と連携し光ファイバーに最適な施工法も確立した。東京―新大阪間の架線は30年までの長丁場となる。