特許庁が審査業務負担の軽減へシステム刷新、乗り越えるべき二つの課題
特許や商標などの知的財産の出願件数は年々増加傾向にあり、審査を担当する特許庁審査官の負担は増大している。こうした中、特許庁は業務処理に関わるシステム刷新に向けたプロジェクトを進めている。システムの刷新を通じ、庁内の仕事を“見える化”。仕事の効率化とともに、特許などの知財情報を示した「公報」の発行期間を縮めるなどユーザーへの利便性向上にもつなげる。(冨井哲雄)
特許庁は年間50万件の特許や商標などの出願受け付けや、審査、登録、紛争判定のための「審判」、発送などのさまざまな業務を実施しており、それらの業務は大規模な情報システムで対応している。業務ごとに、システム構築当時のIT水準に合わせ、個別に最適なシステムを構築してきた。特許庁担当者は「数多くの個別システムが複雑に連携している。システムの最適化が重要な課題」と言う。
現時点での課題は二つ。一つはシステムの改修のしにくさだ。複数のシステムが複雑に関わるため、同時改修が必要。他のシステムへの影響を考慮しシステム間の動作試験を多く実施しなければならず、改修コストがかさみ、運用までの期間が長期化していた。
もう一つはリアルタイム性の欠如。各システムは独自にデータを保持しているため、システムごとにデータに重複がある。そのため各システムが持つデータの整合性を保つため、個別システムのデータを更新する必要がある。そのため複数のシステムにまたがる業務の処理に遅れが生じていた。
こうした点を改善するために、特許庁はシステムの刷新プロジェクトを進めている。業務アプリケーション(応用ソフト)、共有データベース(DB)、業務アプリとDBを通信でつなぐ基盤機能の3層のシステム構造に変更。個別システムが持っていたDBを共有化することで、システム全体の構造を段階的に簡素化する。「制度改正や運用変更時の影響箇所を減らすことで個別システムの開発規模を小さくできるため、システム改修時のコストを減らせる」(特許庁担当者)。さらに共通のDBを使うことで最新情報をリアルタイムで引き出すことが可能だ。
すでに5月に特許・実用新案審査業務システムの運用を開始している。今後、公報や審判、形状やデザインなどを示す「意匠・商標」のシステムを順次開発・運用する。刷新プロジェクトの終了は2027年を見込む。
企業では特許などの知財を活用した戦略の重要性が指摘されている。知財を生かした企業の活動を支援するため、特許庁のシステムを刷新し効率化を進めることが急務となるだろう。