「経済安全保障」を強化・推進へ、経産省の政策はどう変わる?

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経済安全保障を巡る世界情勢は緊迫の度合いを増している。米中対立に代表されるように、主要国・地域が安全保障と経済を一体に捉えて、自国優先の産業政策へ傾斜する。特に今後の社会を大きく変えうる人工知能(AI)や量子コンピューターなどの技術革新に欠かせない半導体は、経済安全保障の1丁目1番地だ。技術立国の日本も半導体を含む機微技術の守りを固めつつ、国内への先端工場誘致など攻めの戦略づくりが求められる。

経済安全保障は岸田文雄首相の掲げる成長戦略の柱の1つだ。10月8日の所信表明演説では、経済安全保障の重要性をあらためて強調した。新たに設けた担当閣僚の下、安全保障上重要な技術流出の防止に向けた取り組みを進め、重要基幹インフラ産業や技術への監督を強化する。加えて、半導体をはじめとする戦略物資の安定供給を可能とするサプライチェーン(供給網)を構築するなど、国内の重要な技術や生産基盤を守り・育てることに重点を置いた、経済安全保障を推進するための法律を策定する方針だ。

国際情勢に大きな変化

米中間の技術覇権争いを起点として、経済安全保障情勢は近年で大きく変化した。急速に技術開発が進展しているAIや先端コンピューティング、量子、極超音速など「エマージング技術(新興技術)」はベンチャー・中小企業やアカデミア主導の開発が多いものの、ひとたび軍事転用されれば軍事バランスを大きく揺るがす可能性が指摘されている。従来、軍や大規模な軍事企業に閉じていた安全保障に関わる先端技術は、ベンチャー・中小企業やアカデミアからも創出される新時代に突入した。

経済産業省の香山弘文経済安全保障室長は「2015年ごろから中国が『軍民融合』の方針を国家戦略として対外的にも打ち出すようになった」と指摘する。この方針は、軍が持っていない技術を含めて富国強兵に資する技術なら国家として積極的に取り込んでいくことを意味する。一方で、香山室長は「これまで自由で開かれたイノベーションの場だった米国は、先端技術分野で中国が力を付けてきているのを感じていた。ただそれが資本主義・自由主義で培われた西側のルールと異なる形で、十分な対価を払うことなく米国の知的所有権が盗まれているとの認識に至った」と技術覇権争いの発端を分析する。

機微技術を生み出す研究開発の中心地であるアカデミアへの中国の経済スパイ活動に対して、米国の警戒心は強い。技術管理を強化するため、エマージング技術分野について大学やベンチャー企業を含めて規制を拡大することを検討しているほか、中国政府が海外の優秀な科学研究者を集める「千人計画」などへの参加の有無の開示など、対応策も充実している。また、連邦捜査局(FBI)などによる取り締まりも加速、2020年1月に米ハーバード大学の現職化学・化学生物学部長が中国政府から多額の利益供与を受けていたにも関わらず米国政府へ虚偽申告をした罪で逮捕・起訴された件は広く知られる。

世界の経済安全保障環境の変容

過度な萎縮に留意し、機微技術を適性に管理する

翻って、日本の機微技術管理はどうか。2021年6月にまとめられた産業構造審議会・安全保障貿易管理小委員会の中間報告において、日本に居住する留学生や労働者のうち、外国政府・法人などの国外の関係者と雇用契約を結んでいたり、外国政府に生活費を依存するなど強い影響を受けている者は、輸出管理の対象として扱うべき旨を提言した。これまで、人を介した技術流出を防ぐ「みなし輸出」管理制度は、外為法の限定的な解釈運用により、外国の影響下にある日本居住者からの技術流出に十分対応できていなかった。香山室長は「日本に長期間住んでいるだけで、あるいは、日本の大学や企業に研究者として雇われているだけで、居住者扱いとなり、軍事転用可能な技術情報であってもアクセスできるようになっていたので、それを見直す」と説明する。

米国政府は、米国の技術またはソフトウェアを用いて直接的に生産された機微な製品の輸出を一部制限する直接製品規制(FDPR)を強化し、第三国から中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)などへの先端半導体供給を規制した。安全保障等の観点からの懸念主体として中国半導体受託製造(ファウンドリー)最大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)をエンティティ・リストに掲載し、半導体製造装置供給の動きにも監視の目を向ける。

 米国の一連の措置に対して、中国政府も当然ながら黙っていない。対抗措置として、2020年12月に輸出管理法を施行し、戦略物資などを対象とした規制品リストの整備や、「みなし輸出」・第三国を経由する再輸出規制の導入、報復措置等が盛り込まれた。その中でも、再輸出規制、すなわち中国輸出管理法の中国域外への適用は日本企業にとって新たなリスクになる可能性がある。「日本企業が、一方を気にして法律上の要請を超えた忖度をすると、他方から『その不公正な対応により自国企業が損害を被っている』と逆に訴えられかねない。日本企業は両国政府間の覇権争いの板挟みの状況に陥るリスクを抱えるようになっている」と香山室長は危惧する。

それに対して、経済産業省は企業にサプライチェーン上のリスクを精緻に把握し、必要に応じて規制当局に許可申請を行うよう求めている。その上で、各国の輸出管理上の要請を超えた過度の萎縮はせず、日本企業のサプライチェーンの分断が不当に求められるような事例などに関する積極的な相談・情報提供を呼びかける。

国内産業基盤の維持・拡大へ

日本における攻めの経済安全保障政策の中心は、半導体の海外ファウンドリーの先端工場誘致を含む国内産業の基盤維持・拡大だ。情報産業課の羽原健雄課長補佐は「半導体は経済・安全保障いずれの文脈でも非常に重要な製品だ。ただ現在は台湾や中国からの輸入に依存しており、もし台湾に何か有事が起きれば、日本に半導体が供給されず、さまざまな製品がつくれなくなる恐れがある」とサプライチェーン寸断のリスクを語る。

半導体サプライチェーンを強固にするため、5G通信インフラ、自動運転、FA(工場自動化)機器などに欠かせない先端ロジック半導体について、生産拠点の国産化を目指す。国内に海外ファウンドリーとの合弁工場を設立し、次世代自動車や情報通信分野など日本の産業に不可欠な製造基盤を構築する。さらに、海外ファウンドリーとの共同開発を促進し、幅広い産業分野を支える半導体デバイスの製造技術開発の強化に乗り出す。

半導体を巡る現状の産業支援策は、米国や欧州に比べて補助金の規模や生産体制の強化などで後れを取っているのは確かだ。「産業の脳」と言われる半導体は、今や多様な産業の根幹を成し、様々なモノの生産や性能を左右する存在になった。日本政府は2021年6月に閣議決定した成長戦略実行計画に「他国に匹敵する取り組みを早急に進め、日本への立地を推進して確実な供給体制を構築する」と明記した。さらに、半導体とデータセンター、クラウド、AIチップ開発など、デジタル産業を支えるサプライチェーンを含めた産業基盤全体に資する支援を進める計画だ。2021年度補正予算・2022年度予算での事業化など今後への期待が膨らむ。

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