160カ国以上で事業展開するテルモ、グループの連携と求心力を高めるために社長が意識すること
「寄せ集めの集団ではなく、同じ船を漕いでいる感覚を全社員に持ってもらいたい。そのためにもグループの連携と求心力を高め、その両方をコントロールしていく」
160カ国以上で事業展開するテルモを率いる佐藤慎次郎社長が、グループをまとめ上げるために意識していることだ。さまざまな価値感を持つ人が働く組織をマネジメントするのは容易ではないが、多様性を尊重する柔軟な発想と他人に耳を傾ける姿勢を常に心がけている。
皆が同じ方向を見て協力し合う重要性を学んだのは、2011年に心臓血管カンパニープレジデントを務めていた時だ。米食品医薬品局(FDA)から米国工場の品質システム改善の指摘を受け、基準をなかなかクリアできずに苦労した。最終的に当初想定から大きく遅れ5年を要して解決することができた。
「苦しい時にこそ皆の価値観を合わせ、周りを巻き込むことで全体を良い方向に持っていくことが重要だ。問題が大きいほど学びや喜びは大きく、人間的な絆も深まる」
その後も順調に昇進し、17年に社長に就任した。同社では60年代に国内初の使い捨て注射器などを展開した戸沢三雄氏や、90―00年代にグローバル展開の礎を築いた和地孝氏らが強力なリーダーシップを発揮し、長年組織を率いてきた。「自分はこれまでのトップのようにリーダシップが強いタイプではない」と分析するとともに、従来とは違うリーダーが求められる時代になったと受け止め、社内変革に乗り出した。
「ボトムアップで現場が活躍できる機会を増やす。また、グローバル化が進む中で各組織の力がさまざまな方向に分散していたため、それらをまとめてチーム経営ができるように変わっていかなければいけない」
そのため年1回、海外子会社のトップを集めて課題を共有する会議を開催。社長として初めて参加した際には参加者に名前の刺繍(ししゅう)入り法被をプレゼントし、皆が同じユニホームを着ていることを感じてもらった。
21年9月に同社は100周年を迎えた。「節目ごとに大きな決断をし世の中の動きに合わせてきたことで、ここまで事業を継続、成長することができた。今後は個別のデバイス販売から統合ソリューション提供へ進化する。当社の役割は広がっていくだろう」と前を見据え、次の100年に向け“ワンテルモ”をさらに強固なものにしていく。(石川雅基)
【略歴】佐藤 慎次郎(さとう・しんじろう)84年(昭59)東大経済卒、同年東亜燃料工業(現ENEOSホールディングス)入社。99年朝日アーサーアンダーセン(現PwCジャパングループ)入社。04年テルモ入社。15年取締役常務執行役員、17年社長。東京都出身、61歳。