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ノーベル生理学・医学賞受賞で話題!辛さを感じる仕組みとは?

おすすめ本の抜粋「おもしろサイエンス神経細胞の科学」
 2021年のノーベル生理学・医学賞は、温度と触覚の受容体を発見した米カリフォルニア大サンフランシスコ校のデービッド・ジュリアス博士と、米スクリプス研究所のアーデム・パタプティアン博士に授与されることが決まりました。
 日刊工業新聞社が発行した書籍『おもしろサイエンス神経細胞の科学』(倉橋隆、竹内裕子著)から、温度や痛みを感じる仕組みについて書かれた項目を抜粋し、2回に分けて紹介します。

熱いことと辛いことは同じ感覚

温度受容器には自由神経終末やルフィニ小体があります。そこには熱さに対する受容体や冷たく感じる受容体があります。TRP(Transient Receptor Potential)と呼ばれるこの受容体はチャネル複合体を形成しています。面白いことに、熱いと感じる受容体は唐辛子のカプサイシンにも応答し、冷たさに応答するものはミントのような、すっとする化学分子にも応答します。つまり、唐辛子類の辛さを英語ではhotと言いますが、これは受容体レベルでみると、辛さと熱さというものが同じものであったことを証明しています。

また、同じ辛い食べ物でも、和食に用いられるわさびは熱受容器を活性化するのではなく、反対に冷受容器を活性化します。つまり、わさびは冷たすぎてひりひりする感覚だといえます。

熱さと冷たさはお互い拮抗する性質があるために、ミントがあると熱さを感じ温くなります。これを利用して、お風呂の中にミントの成分を入れると、若干温度が低めのお湯になるので、ほてりがなくなったり、あるいは温かい湯にずっと入っていられるので、体の芯まで温まることができます。このようなミントの性質は、入浴剤などに利用されています。また、触覚に関係する細胞にはパチニ小体やメルケル触盤などがあります。それぞれ、少しずつ違う場所にあり、空間的な解像度や順応の仕方が異なることで、機能を分担しています。

イラスト:竹内裕子
(「おもしろサイエンス神経細胞の科学」p.44-45より一部抜粋)

書籍紹介

私たちの身の回りには、五感をはじめとした神経系の働きと密接に関係した商品が数多く存在しています。本書ではヒトの機能、神経細胞についてやさしく解説します。


書名: おもしろサイエンス神経細胞の科学
著者名:倉橋 隆、竹内 裕子
判型:A5判
総頁数:160頁
税込み価格:1,760円

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執筆者


倉橋 隆(くらはし たかし)
1990年 筑波大学大学院 修了(理学博士)
1990─1996年 生理学研究所 助手
1992年 ジョンズ・ホプキンス大学医学部 リサーチフェロー(上原財団)
1992─1993年 モネル化学感覚研究所・所長招聘リサーチフェロー
1996─1997年 大阪大学大学院 助教授
1999年─現在 大阪大学大学院 教授
2010年─現在 三重大学大学院 客員教授、リサーチアソシエイト
【受賞歴】
モエヘネシールイヴィトン(仏) ダビンチ賞
米化学感覚学会(AChemS) Takasago賞

竹内 裕子(たけうち ひろこ)
2000年 慶應義塾大学大学院 医学研究科修士課程修了
2000年 大阪大学大学院 基礎工学研究科 助手
2002─2007年 大阪大学大学院 生命機能研究科 助手
2005年 イタリアSISSA(International School for Advanced Studies)リサーチフェロー
2005年 大阪大学大学院 基礎工学研究科 論文博士取得(理学博士)
2007年─現在 大阪大学大学院 生命機能研究科 助教
2010年─現在 三重大学大学院 医学研究科 客員研究員
【受賞歴】
 日本生理学会 奨励賞
 FAOPS Young Investigator Award

目次(一部抜粋)


第1章 神経細胞って何?
第2章 体の中で情報が伝わる仕組み ―神経・細胞・情報の機能と役割―
第3章 イオンチャネル ―神経活動の主役―
第4章 神経細胞内で働くさまざまな物質
第5章 感じる仕組み ―感覚を物理化学で解き明かす―
第6章 神経生理学とは ―神経の活動やイオンチャネルを研究する方法―

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