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5Gの通信品質を改善する「電波散乱壁」とは?

NICTが開発を推進

2020年からサービスが開始された第5世代通信(5G)では、28ギガヘルツ帯(ギガは10億)の周波数が使用され、超高速大容量通信、超低遅延、多数同時接続の通信が行われる。この周波数帯では、ある方向に電波を強く放射する指向性の鋭いアンテナが用いられるため、例えば、送信アンテナと受信アンテナの間に遮蔽(しゃへい)物がある場所では、電波が受信アンテナに届かなくなり、通信品質が大きく劣化する問題がある。

そこで、情報通信研究機構(NICT)では、通信品質を改善することを目的とした電波散乱壁の開発を進めている。電波散乱壁とは、通常の金属平板で生じる反射と異なり、さまざまな方向に電波を散乱させることができる特長を有する壁面のことである。これにより、送信アンテナから放射した電波は、電波散乱壁を用いて実現される広角な散乱により、通常の金属平板による反射では届かない領域に存在する受信アンテナにも到達できるようになる。

電波散乱壁を利用した通信品質の改善と試作した電波散乱壁

電波散乱壁の構成法の一つとして、異なる反射特性を示す二つの表面の配置順を変化させて構成する方法がある。NICTが開発した電波散乱壁の表面には、自然界にない特性を実現した人工媒質を実現するメタマテリアル技術を利用している。メタマテリアル技術を用いない従来の電波散乱壁では、表面には0・25波長程度の凹凸ができるが、メタマテリアルを用いたことで、薄型化が可能となった。NICTで実際に試作した電波散乱壁では、厚さを約1ミリメートルに抑えることができ、壁紙のように壁面に張り付けて使用することができる。

NICTでは、電波散乱壁をはじめとした「電波伝搬を人工的に制御する技術」に関する研究開発を進め、5Gで利用される28ギガヘルツ帯、さらに次世代の移動通信システム(ビヨンド5G/6G)での利用が検討されている300ギガヘルツ帯をはじめとした無線通信の発展を担っていく。

◇電磁波研究所 電磁波標準研究センター・電磁環境研究室 研究員 村上靖宜 15年福井大学大学院博士課程修了。東京農工大学特命助教を経て、19年より現職。電波の精密測定技術などの研究に従事。博士(工学)。
日刊工業新聞2021年9月7日

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