日本企業の技術力を支えるデータ流通基盤をどう作るか。東芝・富士通などの声

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日刊工業新聞が実施した研究開発(R&D)アンケート(8月10日付掲載)から研究開発のデジタル変革(DX)への期待の高さが鮮明になった。DXに伴い、産学連携も次の段階に進もうとする。カギはデータ流通だ。販売時点情報管理(POS)と天候データなど、産業界は事業領域で連携してきた実績がある。日本企業の技術力を支える基盤をいかに作っていくか、アンケート回答各社の声を紹介する。(小寺貴之)

【旗振り役望む】

「産学官の垣根を越えたデータ流通のために、データプラットフォーム整備などによるデータ連携推進を要望したい。人工知能(AI)技術や医療分野などで各研究機関、医療機関の保有するビッグデータ(大量データ)の利活用推進の仕組みづくりや産学官連携、人材流動の活性化を要望したい」―。

東芝の政府に対する要望に日本の課題が濃縮される。産学官でデータ流通のためのインフラを整え、医療などの公的部門が事業を担う分野でデータ連携の成功事例を積み上げるというものだ。民間企業にとって研究データは虎の子だ。簡単には社外に出せない。データを共有する際のデータ品質や信頼性と機密管理、データ秘匿性の担保が必要だ。そこで公的部門に対し、データ連携の旗振り役を期待している。

ある製薬大手は「日本は個別の研究室と共同研究するまで、どんなデータが蓄積されているか分からない。米国では公的研究費の配分、アカデミアでのデータ取得、企業へのデータ提供と二次利用、企業からの非競争的な解析結果の返却を関連付けた仕組みがある」と、日本でも同様の仕組みの構築を求めた。

【共有に消極的】

しかし単にデータがあればいいのではない。富士通は「データを介して複数組織が連携すれば、データの真正性や加工の履歴、リネージュ(血統)などの保証・管理が重要だ。これらが十分可能で、かつ簡便に連携できるデータ活用基盤の実現が大きな課題」と説明する。ただ、これは難しくはあるが技術で解決可能だ。

より難しいのは利害調整と合意形成だ。東洋エンジニアリングは「データ共有でAIデータ解析に十分な量のデータ確保を期待するが、データは各社の知財、競争力の側面が大きいため、各社が提供、共有に消極的にならざるを得ない」と指摘する。このため、業界を挙げてのコンセンサスづくりや秘匿性担保、情報提供した企業へのメリット付与などが有効だとしている。各社とも、合意形成の土台となるルールづくりとインセンティブ設計への要望は強い。

【競争力強化も】

一方、データ共有で業界の競争力強化を予見する企業もある。オムロンは「センサーは日本が競争力のある領域。データ活用基盤で必要なセンシングデータのプロファイル情報やセンシングデータ品質の基準(ガイドライン)を世界に先駆けて提案することは、国際競争上でも重要。ぜひ推進していただきたい」と要望する。

公的部門などの旗振り役と、勝つための戦略が明確になれば、政府の政策としても支援しやすいはずだ。

さらにデータを扱える人材育成も急務。「データサイエンティストや、データアナリストが不足している。まずは人材面での支援の充実を」(ユニチカ)と分野に限らず、データ人材への要望が各社とも強い。直近では日本でもデータやAI関連の教育や研究を後押してきたが、産業界に充足感はない。人材育成は時間がかかるものの着実に効果がある。施策の強化が必要だ。

日刊工業新聞2021年9月10日

COMMENT

小寺貴之
編集局科学技術部
記者

産業界はビッグデータブームのころからデータ流通に取り組んできているので、データ連携の有効性は認識しています。ただ利害関係をひも解くマルチステークホルダー問題が解けない。政府主導に期待しつつ、変なルールだけは作ってほしくない。そこでパブリックなデータにアクセスしやすくしてほしい。この流れは研究開発データも同じでした。そして人材育成は間違いない投資だから国にがんばってほしい。それならば、産学官で進める大型研究事業はプロジェクトメンバー以外の産や学にも波及するようデータ基盤を整えるべきだと思います。すべて公開したら技術流出なので、オープンアクセスなデータ領域を作っておいて、大型事業が終わった後も連携の求心力にする。これができれば金の切れ目が縁の切れ目にならず、連続性を担保できるように思います。

キーワード
DX データ流通

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