「ノーベル賞」発表迫る!コロナ関連もある、有力候補者と研究成果をまるっと紹介

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カリコ氏

ノーベル賞の発表が来週に迫った。自然科学3賞は10月4日に生理学医学賞、5日に物理学賞、6日に化学賞が発表される。20年は日本人の受賞が期待されたが、叶わなかった。世界に誇れる成果をあげた研究者は日本に数多く存在し、2年ぶりの日本人の受賞に期待が持たれる。また本年は、パンデミック(世界的大流行)となった新型コロナウイルス感染症収束の足がかりとなるワクチンや治療薬の要素技術も注目される。有力候補者とその研究成果を紹介する。(飯田真美子、山谷逸平、小寺貴之)

【生理学医学賞】カリコ氏/「mRNAワクチン」成功

21年のノーベル賞は新型コロナウイルス感染症関連での受賞に期待が持たれる。生理学医学分野では、新型コロナ感染症の重症化を防ぐと期待される「メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン」の開発に必要な要素技術を構築した米ペンシルベニア大学医学部客員教授のカタリン・カリコ博士が最有力だ。

遺伝物質の一つである「mRNA(リボ核酸)」は、体内で分解し炎症を引き起こしやすい。カリコ氏はmRNAを構成する一つの物質を別の物質に置き換えると炎症反応が抑えられることを発見し、mRNAがワクチンに応用できるようになった。新型コロナの収束の先駆けとなったmRNAワクチンの要素技術にノーベル賞が贈られる可能性は高い。

岸本氏・平野氏/リウマチ薬が効果

岸本氏
平野氏

新型コロナ感染症治療薬の候補になっている医薬品「アクテムラ」の開発に貢献した、大阪大学の岸本忠三特任教授と量子科学技術研究開発機構の平野俊夫理事長にも注目だ。

両氏は体の免疫応答や炎症反応に関わる重要なたんぱく質「インターロイキン6(IL―6)」が関節リウマチ患者の関節液中に高濃度存在することを発見し、IL―6の産生異常が関節リウマチの発症や病態に関与している可能性を明らかにした。

その後の研究で関節リウマチの治療薬の開発などを後押しした。こうした基礎研究は製薬企業などによるIL―6阻害抗体医薬の開発への道を切り開くとともに、新型コロナの治療薬候補の開発に寄与することとなった。

両氏は「ノーベル賞の登竜門」とされる「クラリベイト引用栄誉賞2021」の生理学・医学分野で受賞者に選ばれている。

松村氏/抗がん剤治療前進

松村氏

生理学医学賞は最近の傾向として、治療や創薬につながる研究が受賞対象となることが多い。有力候補はがん組織だけに効率的に作用する治療法の開発に貢献した、国立がん研究センター研究所の松村保広客員研究員だ。

がん細胞周辺の血管壁にはすき間があり、大きな分子化合物がそこを通り抜けてがん細胞に集積する「EPR効果」を解明。抗がん剤をがん組織だけに作用させる薬物送達システム(DDS)の礎になる発見として注目され、抗がん剤治療の進歩に寄与した。

京都大学の森和俊教授も有力候補の一人として名を連ねる。たんぱく質を作る細胞小器官「小胞体」内の変性したたんぱく質の検出と修復の仕組みを発見した。仕組みを応用し糖尿病やがんの解明、治療法の研究が進んでいる。

【物理学賞】十倉氏/高温超電導体設計を容易に

十倉氏

物理学賞は、19年と20年の2年連続で宇宙分野の研究者が受賞していたが、21年は物性などの応用分野で受賞の可能性がありそうだ。日本人が得意とする分野であり、候補者も多く挙がっているため期待が高まる。

東京大学の十倉好紀卓越教授(理化学研究所創発物性科学研究センター長)が有力候補の一人だ。電気を通さない「絶縁体」に電子を入れて高温超伝導体を作る「電子型」を発見。誰でも高温超伝導体を設計できる「十倉規則」を確立した。低消費で大容量の記憶デバイスなどへの応用が見込まれる。

宮坂氏/次世代太陽電池「ペロブスカイト」

ペロブスカイト太陽電池

次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」を開発した桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授も候補に挙がる。印刷技術を使って製作するため従来の太陽電池よりもコストを抑えられる。薄く曲がりやすいことから、さまざまな用途に活用できるのが特徴だ。

ネオジム磁石を開発したNDFEB(京都市西京区)の佐川眞人社長も注目だ。開発から30年以上が経過するがネオジム磁石よりも強力な磁石はまだ生み出されておらず、20世紀の大発明の一つと言われる。

この他にも電気を通すセメントや鉄を主成分とする高温超伝導体、酸化物半導体「IGZO(イグゾー)」の三つを発見した東京工業大学の細野秀雄栄誉教授や、300億年に1秒のズレしかない「光格子時計」を開発した東大の香取秀俊教授らも有力視されている。

【化学賞】山本氏/不斉合成の応用進める

山本氏

化学賞は01年からの20年間で12回が生体分子の分析化学や生化学分野から選ばれ、創薬や生命科学のための化学が評価される傾向となっている。約5年おきに有機化学が受賞していることも注目だ。前回、有機化学が受賞したのは16年の分子機械。21年が“5年周期”に当たるなら、有機合成で創薬などに貢献した研究が有力となりそうだ。

この条件に合致するのが中部大学の山本尚教授・名古屋大学特別教授・シカゴ大学名誉教授だ。山本教授はルイス酸触媒を用いた不斉合成反応を確立した。触媒の立体構造を利用し、右手と左手のように鏡像関係にある不斉分子を作り分けた。現在は不斉合成の知見を発展させてペプチド合成に挑戦している。ペプチドの製造コストを1万分の1に下げ、ペプチド創薬の革新を目指す。

三菱ケミカルや東大などが参画する新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の光触媒水素製造プロジェクト

化合物を合成する研究は何度も受賞対象となったが、それを支えた研究も重要だ。この観点では、らせん高分子の岡本佳男名大特別教授・ハルビン工程大学特聘教授が挙げられる。らせん高分子は不斉分子の精製に使われる。不斉合成の研究者は、らせん高分子のおかげで合成の成功を証明でき、ノーベル賞も生まれた。医薬品製造にも不可欠な技術だ。

また、スウェーデンを含め、欧州では脱炭素の風が吹いている。そのためエネルギー化学の分野から選ばれる可能性も高い。光触媒の藤嶋昭東大特別栄誉教授・東京理科大学栄誉教授が有力候補だ。足元では東大などのチームが光触媒パネルを作製し、100平方メートル規模の水素製造システムを構築した。太陽光と水から水素や有機化合物を生産する社会へ着実に近づいている。

海外の有力候補/ブラックホール・素粒子観測…

約120年の歴史があるノーベル賞は生理学医学と物理学、化学の3賞以外に、文学と平和、経済学の6分野に与えられる。一つの賞で最大3人が受賞でき、賞金は1賞につき1000万スウェーデンクローナ(約1億2790万円)。自然科学分野は融合分野での受賞が増えており、化学賞は生理学医学と物理学で候補に挙がった研究者が受賞することも多い。日本人受賞者は米国に次いで2位。2年ぶりに日本人受賞者を輩出し、科学技術立国の底力を見せられるか。

南極にある素粒子観測所「アイスキューブ」(F. Pedreros, IceCube/NSF提供)

日本だけでなく海外にも有力なテーマが多い。物理学賞には、巨大ブラックホールの影の撮影に成功した国際研究グループが候補になっている。また、南極にある素粒子観測装置「アイスキューブ」を使い、素粒子の一種である「反ニュートリノ」の観測に初めて成功した国際研究グループの名前も挙がる。どちらも日本人研究者が研究に関わっている。

新型コロナの影響で例年12月にスウェーデン・ストックホルムで行うノーベル賞の晩さん会は中止する。授賞式は各受賞者が自国でメダルと賞状を受け取る。受賞者の発表は10月4日から始まる。

日刊工業新聞2021年9月27日

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