建設機械「CO2排出ゼロ」へ。自動車と違う特有の課題にどう立ち向かうか
「CO2排出50年ゼロ」に対応
日本建設機械工業会(建機工)は「カーボンニュートラル実現に向けた要望」を、経済産業省と国土交通省に提出した。菅義偉政権が2050年までに二酸化炭素(CO2)排出量実質ゼロを宣言し、建機業界も対応が急務になっている。自動車に比べ建機は大型で重いため、稼働にケタ違いのパワーが必要な一方、生産台数は少ない。海外規格との調和の問題もある。要望はこうした状況を踏まえ、研究開発やユーザー支援のほか、公共工事における有利な取り扱い、革新的建機の公的認定制度創設などを求めている。(編集委員・嶋田歩)
カーボンニュートラルでは自動車業界が電気自動車(EV)や水素燃料電池車(FCV)などの開発へ動きだしている。建機業界もコマツ、日立建機、米キャタピラーなど大手を先頭に各社が研究を始めているが、自動車とは違う特有の課題がある。
自動車は車体重量が1トン未満から2トンなのに対し、建機は10トンや20トンある。車体を動かすのに大きなパワーが必要なため、リチウムイオン電池にしても水素燃料電池にしても、多い本数やタンクが必要になる。加えて自動車が走るのはきれいに舗装された道路だが、建機の作業現場はぬかるみや砂利道などの不整地が中心で、勾配も多い。
現在のリチウムイオン電池の場合、パワーの問題から利用は小型のマイクロショベルとミニショベルがせいぜいで、一般油圧ショベルには課題が多い。仮に動かせても短時間で再び給電が必要になるため、給電スタンドを付近に整えなければならず、工事の進捗(しんちょく)で刻々と変わる現場や、山奥に設置するのはコストの面から現実的でない。
リチウムイオン電池や水素燃料電池の開発は基本的に自動車の搭載が念頭で、建機特有のニーズを踏まえた形にはなっていない。トラックやバス向けのものを流用するしかないのが実情だ。
建機分野でカーボンニュートラルに向けた開発を進めるには、これらの実情を踏まえた支援が不可欠になる。環境政策で先行する欧州ではEVショベルや水素ショベルと一般油圧ショベルとの価格差を実質的に補填(ほてん)したり、公共工事における有利な取り扱いを決めたりしているところもある。
普及を早めるにはこうした支援に加え、電気・水素ステーションなどの公共インフラ整備も必要になる。コマツが交換式バッテリーパックに強いホンダと組んだり、日立建機がABBと組んでトロリー(架空線集電)充電式のフル電動ダンプトラックの開発を始めたりしているのもこうした背景がある。
海外規格や規制との調和性も見逃せない。EVなどの優遇策や支援策は欧州が先行しているが、日本が得意とするハイブリッド車(HV)が外されるなど自国に有利な規制であることも否定できない。中国も同様に囲い込みが予想される。各国のエゴが主導権争いでぶつかり合う中、日本勢がどこと組むかも焦点だ。
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