NICTが監視・予報する「宇宙天気」は何に生かされるの?
世の中を騒がせている「新型コロナ」だが、太陽にも我々の社会に大きな影響を及ぼし得る「太陽コロナ」が存在する。「コロナ」とは元来「王冠」という意味で、皆既日食の際に月の影の周囲から真珠色の淡いガスが放射状に広がる様子が、あたかも太陽が光り輝く王冠をかぶっているように思われたのであろう。
新型コロナの原因となるコロナウイルスも、顕微鏡で見ると球状のウイルス本体の周囲に特徴的な突起が並んでおり、王冠や太陽コロナを連想させたことから名付けられたと聞く。
この太陽から放出されるガスが宇宙空間へ放出される現象を「コロナ質量放出」と呼ぶ。太陽のせきやくしゃみに例えられるこの現象は、高密度のガスや磁力線を引き連れており、ひとたび地球に到来すると地磁気や電離圏の「嵐」をもたらす。地磁気が乱れると地上の送電線網に誘導電流が引き起こされ、送電施設に障害を及ぼすことがある。
実際に1989年には、カナダのケベック州でコロナ質量放出現象に伴う大停電が発生し、経済的損失は当時のレートで10億円を上回った。また、電離圏が乱れると短波通信の障害や、全地球測位システム(GPS)に代表される衛星測位システムの誤差増大がしばしば報告されている。
このため情報通信研究機構(NICT)では「宇宙天気予報センター」を設置して、太陽と地球を取り巻く宇宙環境、すなわち「宇宙天気」の監視・予報を行っている。ここでは、地上の観測装置や人工衛星から得られたリアルタイムのデータを基に、スーパーコンピューターによるシミュレーションを組み合わせた予報を1日2回発表している。
これらの情報は航空会社にも提供されて、地磁気の乱れの影響を受けやすい高緯度地帯の飛行時に活用されている。また、宇宙天気予報センターのウェブページでは、一般にも分かりやすい形で宇宙天気の現況および予報が閲覧できるようになっている。
人類の宇宙進出が進む将来に向けて、NICTでは宇宙天気予報の精度を高めるべく日夜研究が進められている。
電磁波研究所 電磁波伝搬研究センター・宇宙環境研究室 研究員 大辻賢一
2011年京都大学大学院卒。国立天文台太陽観測所、京大飛騨天文台を経て、20年NICTに着任。地上光学太陽望遠鏡網を用いた太陽表面におけるガス塊噴出現象の研究および宇宙天気予報システムの改良に従事する。博士(理学)。