「J-クレジット制度」の取引価格が1年で3割も上昇した背景
再エネ利用、企業の購入増
二酸化炭素(CO2)排出量を削減した成果を取引する国の「J―クレジット制度」の取引価格が上昇している。8月に公開した4月の平均落札価格は再生可能エネルギー由来クレジットが1トン当たり2536円となり、約1年前と比べ3割上がった。クレジットの購入で再生エネを利用したと報告できることから、大企業の購入意欲が高まっている。(編集委員・松木喬)
排出量取引の新市場に弾み
J―クレジット制度は、再生エネ発電設備の導入や省エネルギー設備への更新などで削減したCO2量を取引可能なクレジットにする。クレジットの売り手は設備投資額の一部を賄え、購入した企業は自社の排出削減量に加えられる。
政府は一部のクレジットを年2回入札を実施して売却しており、再生エネ設備によるクレジット(再生エネクレジット)の価格が上昇している。初回の2018年1月は1トンのCO2削減価値があるクレジットの平均落札価格は1716円だった。その後、毎回上昇し、21年1月に2000円を超えた。4月に記録した2536円は、電気代にすると1キロワット時1・17円となる。
一方、省エネ設備によるクレジット(省エネクレジット)は1500円前後が続く。倍率でも再生エネクレジットは21年4月が3・6倍、省エネクレジットは1・4倍と差があり、旺盛な需要が再生エネクレジットの価格を押し上げている。
市場の取引価格も上昇しているようだ。企業のCO2削減を支援するカーボンフリーコンサルティング(横浜市中区)は「入札価格に連動し、相対取引の価格が上昇傾向にある」とする。クレジットが品薄なこともあり、値上がりしても購入者が後を絶たない。
実際、大手企業による大量購入も目立つ。アストラゼネカ(大阪市北区)はクレジットを利用し、本社や工場など国内拠点が20年に消費した1356万キロワット時の電気を再生エネ化した。カルビーも20年、関東5事業所の電気をクレジットによって再生エネ化した。こうした動きを反映し、相対を含めたJ―クレジット全体の21年度の利用実績も8月4日までに43万トンとなっており、20年度の71万トンに迫る勢いだ。
再生エネを使ったとみなせるクレジットや証書は制度改革が予定されている。国が管理する非化石証書はJ―クレジットの80倍の供給量がある。電力会社しか購入できないが、現在、企業も購入できる方向で検討が進む。
また、国は意欲のある企業が参加する排出量取引制度や新たなクレジット市場の創設も打ち出しており、クレジットや証書の取引環境が大きく変わりそうだ。