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極地豪雨や竜巻の前兆を捉えろ。NICTが挑むライダー技術の研究開発

近年、局地豪雨や竜巻などの局所的で突発的な大気現象による災害が増加傾向にある。急激に発達する積乱雲に伴い発生するこれらの極端気象は、河川の氾濫や土砂災害を引き起こし、人々の生活に甚大な被害をもたらすことがある。

情報通信研究機構(NICT)では、積乱雲発生の前兆現象となる「風」の収束・上昇気流と、雲や雨の素となる「水蒸気」を同時計測するライダー技術(マルチパラメーターライダー)の研究開発を進めている。

ライダーは、レーザー光を用いるリモートセンシング技術の一種であり、大気中にパルス状の光、または強度や位相を変調した連続光を照射し、測定対象からの散乱光を測定し、遠距離にある対象までの距離とその性質を計測する技術である。

マルチパラメーターライダーは、風に乗って移動する大気中の微粒子(エーロゾル)からの散乱光のドップラーシフト成分を計測することで「風」を、水分子に対して吸収の強いレーザー光と吸収の弱いレーザー光を用いて、レーザー光の吸収量の差から「水蒸気」を同時に計測する。

風と水蒸気を同時計測するためには、観測に適した波長にレーザー光の発振波長を合わせる必要があるが、NICTでは独自の高精度な波長制御技術を用いてこれを実現した。

また、マルチパラメーターライダーで風と水蒸気の空間分布を把握するためには、屋外に向けて3次元的にレーザー光を走査して観測を行うことが前提であり、実用化に向けた課題の一つとして目に対する安全性がある。

そのため、目に安全な波長(アイセーフ波長)である2マイクロメートル(マイクロは100万分の1)帯で発振する世界最高出力クラスの2マイクロメートルレーザーの研究開発も進めている。

NICTでは、マルチパラメーターライダーのほかにもフェーズドアレイ気象レーダーをはじめとして、さまざまなリモートセンシング技術の研究開発を進めている。

今後は、マルチパラメーターライダーを中心として他のセンサーと融合観測を行い、極端気象の早期探知・予測に取り組む予定である。

◇電磁波研究所 電磁波伝搬研究センター・リモートセンシング研究室 研究員 青木誠 2012年静岡大学大学院博士課程修了。同大工学研究科学術研究員を経て、14年NICTに入所。光リモートセンシング、赤外線固体レーザーなどの研究開発に従事。博士(工学)。
日刊工業新聞2021年7月27日

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