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JAXAとNICTが共同開発。宇宙から降水量を観測するレーダー「DPR」のすごさ

JAXAとNICTが共同開発。宇宙から降水量を観測するレーダー「DPR」のすごさ

DPRが7年間(14年3月―21年2月)に観測した世界の降水量分布。単位は30日当たりの地表面降水量(mm)(情通機構提供)

宇宙から見ると漆黒の闇の中に青く輝く地球は水の惑星とも呼ばれる。しかし地球上に存在する水のほとんどは海水で、私たちが利用しやすい水資源は湖や河川のごく限られた表層の淡水でしかない。その供給源は陸上に降り注ぐ雨と雪(合わせて降水と呼ぶ)なので、水資源を適切に利用するには降水の地域分布を監視することが欠かせない。

降水を正確に測る方法は、現地に赴いて降水量を測ることだ。しかし、世界中に配置された雨量計を1カ所に集めても、その面積はサッカーコートの半分程度しかない。自然環境や紛争地域などによって人が立ち入ることが難しい場所もある。地球規模で降水の地域分布を把握するとなると、現地の観測だけでは限界がある。

宇宙から観測をすると、地球表面を広い範囲で均一に繰り返し観測することができる。情報通信研究機構(NICT)は宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で宇宙から降水を測る観測測器、二周波降水レーダー(DPR)を開発してきた。DPRは日米共同で開発された衛星に搭載され、2014年にH2Aロケットで高度407キロメートルの周回軌道に打ち上げられた。7年経過した現在も順調に観測を行っている。

DPRが優れているところは、二つの周波数の電波を用いることだ。DPRは自ら電波を発射し、周波数で強さが異なる降水粒子の反射波を観測する。降水粒子の大きさと数によっては降水の強さが異なっていても反射波の強さが同じになってしまうことがあるが、DPRは二つの周波数の観測から、それら強度の違いを基に降水粒子の大きさと数を求めつつ、降水の強さも高い精度で求めることができる。

なおDPRには先代がいて、これもNICTとJAXAの共同開発による降水レーダーで、1997年から15年まで観測が行われた。これら2世代のレーダーを組み合わせると、地球規模の降水量時系列を20年以上の長さで調べることができる。昨今頻発する極端な大雨増加の有無が日本発の観測結果から分かるかもしれない。その研究は途上にあるが、先人たちの努力によって実現された遺産を生かすことは次世代を託された研究者の務めだ。

電磁波研究所 電磁波伝搬研究センター・リモートセンシング研究室 研究員 金丸佳矢
14年名古屋大学大学院博士後期課程修了後、JAXA、東京大学を経て、19年から現職。人工衛星から電波を発射し、降水の強度分布を観測する衛星搭載降水レーダーの解析研究に従事する。博士(理学)。
日刊工業新聞2021年7月20日

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