産業用ロボットがV字回復。半導体・鉄鋼など供給不足の影響は?
過去最高を三度(みたび)更新―。産業用ロボットがV字回復を遂げている。新型コロナウイルス感染症などの影響で停滞していた企業の設備投資が本格的に動き始めた。これら資金の行き先は自動化設備であり、産業用ロボットを手がける企業が受け皿となっている。半導体や鉄鋼など材料の供給不足がロボット生産の足かせとなっている面もあるが、しばらく高水準の需要が続きそうだ。(川口拓洋)
内外で需要増
日本ロボット工業会は7月下旬に、2021年4―6月期の産業用ロボットの受注額(会員ベース)が前年同期比56・5%増の2502億円だったと発表した。四半期としては1―3月期の2460億円に続き、3四半期連続で過去最高を更新した。世界最大市場である中国のほか欧米や日本でも設備投資が回復しており、受注の増加につながっている。
注目すべきはコロナ禍をいち早く乗り越え、20年夏から高い需要を示す中国だ。市場全体をけん引する。4―6月期の総輸出額は同36・9%増の1700億円と3四半期連続の増加となったが、このうち中国向けは約5割を占める。
同地域向けは1―3月期の840億円を上回り、過去最高となる876億円を記録した。
北米向けの21年4―6月期は278億円となった。米中貿易摩擦が顕在化する前の18年1―3月期と同水準で着地し、こちらも回復基調が鮮明になっている。特に自動車向けの溶接や塗装ロボットが回復しており、需要全体を押し上げているとみられる。総出荷額における輸出比率は8割を超える。国内より中国や北米をはじめとした海外市場の回復が先行している。
日本勢の動向
各社の足元の決算から市場動向を読み解く。2月期決算のため、他社より1カ月ほど決算時期が早く先行指標となっている安川電機では、21年3―5月期のロボットの売上高は前年同期比38・9%増の407億円だった。営業利益は同7倍の21億円と大きく回復した。中国や欧米などで自動車関連の投資が回復していると見ており、電気自動車(EV)関連も旺盛なようだ。半導体の製造で欠かせない搬送用ロボットの需要も堅調に推移。合わせて物流や食品などでは、生産の高度化・自動化のニーズが増えているという。これらを踏まえ、22年2月期のロボット事業の営業利益は、前期比2・6倍の179億円を予想。4月時点の予想からも上方修正した。
SMBC日興証券は7月9日のリポートで、一部顧客の前倒し発注(仮需)があるものの「中国のみならず、先進国においても、製造業全般で事業環境が大きく回復していることを裏付ける」と評価。「半導体向けのみならず、自動車、工作機械といった主要業種全般で投資が伸長している」と分析する。
11月期決算のため横並びの比較はできないが、不二越が7月に発表した20年12月―21年5月期のロボット事業は、売上高が前年同期比0・4%増の137億円だった。21年11月期は同8・6%増の290億円を見込む。不二越の坂本淳社長はロボット事業全体について「あらゆる分野で人手からロボットへ移行している。6軸多関節だけでなく、水平多関節(スカラ)ロボットや協働ロボットなどに取り組む」と意気込む。同社は自動車向けだけでなく電機・電子向けの小型ロボットにも力を入れており「今後伸ばすのは電機・電子など。バッテリーの搬送や組み立てなどロボットの活用が広がる。3―5年で商品開発や営業体制を拡充する」(坂本社長)とした。
ファナックの21年4―6月期決算でロボットの売上高は、前年同期比44・8%増の588億円だった。受注高も同78・6%増の786億円と地力の強さをみせている。山口賢治社長は、ロボットを含む主力事業すべてが「中国・米州・欧州どの市場も非常に好調。日本も回復基調にある」と好感触の様子。さらに「下期も同程度の売り上げが続く想定」と期待する。自動車以外の一般産機でもロボット化に熱心な状況で「景気回復に伴い、設備投資を急いで行っている」と高い需要の背景を語った。
川崎重工業もロボット事業関連で順調な回復を示す。汎用ロボットでは中国などコロナ禍の影響から回復が早い地域を中心に好調へ転じたほか、半導体向けロボットは半導体メーカーの設備増強により堅調に推移する。このため21年4―6月期の売上高は前年同期比50・4%増の170億円で着地。22年3月期は前期比19・7%増の900億円を見通す。山本克也副社長は「ロボットは半導体向けが好調。政府や大学などとのオープンイノベーションも推進し市場を開拓したい」と一層の拡販を示唆。また、10月以降には「自動車向けなども伸びてくる。ロボット全体で過去最高を計画している」と自信をのぞかせる。
深刻な部品不足 緩和後“受注1兆円超え”も
各社とも軒並み好業績を残したが、懸念材料もある。半導体をはじめとした部品不足だ。製造業の生産活動が急激に活発化したため、影響が顕著に出ている。ファナックの山口社長は「部品調達の制約がどこで解消されるかは見通し難いところ」と認識。同社の高い受注動向からみると、売上高のさらなる引き上げも期待できるが「部品の入手は厳しい」とこぼす。
日本ロボット工業会は21年の産業用ロボットの受注予想(非会員を含む)を、前年比12・3%増の9640億円と予想する。統計を取り始めた01年以降で過去最高を更新する。これまでは18年の9624億円が最高で、17年の9447億円がこれに続く。
個別企業では17―18年の水準を超えるケースも出てきており、部品不足が徐々に緩和されれば業界悲願の“受注1兆円超え”も見えてきそうだ。
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