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企業の事業継続から「脱炭素」インフラ整備まで。経産省が描く航空機業界支援の全貌

企業の事業継続から「脱炭素」インフラ整備まで。経産省が描く航空機業界支援の全貌

水素燃料に対応した空港インフラのイメージ(出典:Clean Sky2,FCH2「Hydrogen-powered aviation」)

新型コロナウイルス禍で、航空機産業が未曾有(みぞう)の危機的な状況を迎えている。一方で、コロナ流行前から強まっていた世界の「脱炭素化」の流れは加速し、国内メーカーも対応を余儀なくされている。こうした中、政府はどう戦略を描き、どのような施策を進めていくのか。経済産業省製造産業局の航空機武器宇宙産業課の担当者に聞いた。

コロナ禍における中小部品メーカーへの支援

航空機産業を支える中小部品メーカーへの支援について、経産省航空機武器宇宙産業課の宮越朗航空機部品・素材産業室長は、「今は、次世代機を開発するため、各メーカーが技術を磨いていく大切な時期。しかし、各企業がテークオフするには、足元がきつい状況だ。国内にある600以上の中小部品メーカーを支えながら、サプライチェーン(供給網)を維持・強化することが欠かせない」とし、政府として航空機産業をしっかりと支えていく考えを強調した。

中小部品メーカーへの支援は、当面の事業継続と将来の発展を見据えた支援の二つに分けられる。

当面の事業継続では、資金繰りと雇用維持が柱。各地方経済産業局では、労働局や産業雇用安定センター、自治体等と連携し、中小企業と多様な人材とのマッチングを通じて、人材の出向・移籍などを後押しする。すでに、中部地区で354名、関東地区で123名の出向・移籍が成立した。

一方、中長期的な支援では、中小企業の新分野参入など事業再構築を促す補助金制度等を用いて、航空機産業で培った高度な技術を、他の分野へ活用することを後押しする。事業のポートフォリオを広げることで、サプライヤーの足腰の強化につなげたい。

航空機産業は引き続き成長産業

さらに、航空機需要の回復および拡大を見据え、中小部品メーカーの海外販路開拓も支援する。狙うのは、航空機需要の拡大と航空機産業の集積が進むアジア地域との協業促進だ。

経産省は、約5年前からアジアでのサプライチェーン構築を目指してきた。まずは、マレーシア政府との連携を進めており、2021年度中に両国の民間航空機産業における協力覚書の締結を目指す。

2018年に経産省が主催した「アジア航空機サプライチェーンフォーラム」(左からマレーシア政府、タイ政府、経産省)

このような取り組みを通じて、サプライチェーンの維持、強化を後押しする。その上で、政府は、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ、CN)に向けた企業の取り組みをサポートしていく。

鍵となるのは「海外との連携」

国際航空における温室効果ガスの低減目標の達成に向け、世界では取り組みが加速している。昨今、エアライン各社は脱炭素化に向けた具体的なロードマップを公表、機体メーカーは次々と将来機に向けたコンセプトを発表する等、コロナ禍においてもその動きは強まるばかりだ。

経産省航空機武器宇宙産業課の村橋さくら課長補佐(取材時点)は、「日本企業も、将来機に向けて技術開発を加速している。できるだけ早いタイミングで海外OEM(オリジナル・イクイップメント・マニュファクチャー、実際に航空機を作るメーカー)との連携を進め、日本の強みとなる技術の次世代機への搭載を確実にすることが重要だ。我々としても、欧米の政府・企業との協力の枠組みや技術開発支援などを通じ、こうした日本企業の活動を後押ししていく」とし、日本企業の活動をサポートする考えを示した。

具体的には、経産省が2019年にボーイング社と締結した将来技術に向けた協力覚書や、経産省とフランス民間航空総局の協力枠組みを通じて、ボーイング社、エアバス社やフランスのエンジンOEMであるサフラン社と日本企業の連携強化に向けて、ビジネスマッチングや技術開発支援を含めた企業間の活動を後押ししている。

日本の技術を確実に社会実装させるためには、技術開発だけではなく、新技術導入に向けた国際標準化活動も重要だ。言語の壁などもあり、従来日本企業はこうした国際標準の議論への参加が欧米企業と比較して遅れている傾向にあった。そのため、できるだけ多くの日本企業の国際標準化議論への参加を促すために、経産省はJAXA航空機電動化コンソーシアム(Electrification ChaLlenge for AIRcraft (ECLAIR) Consortium)と連携し、2020年にコンソーシアム内に新たな組織を構築するなど、積極的に取り組んでいる。

日本の強みを生かす

では、日本企業の技術的な強みはどこにあるのか

経済産業省製造産業局航空機武器宇宙産業課の宮越朗航空機部品・素材産業室長(右)と村橋さくら課長補佐(取材時点)

村橋課長補佐は、「既に素材分野、特に炭素繊維強化プラスチック(CFRP)における日本企業の存在感は大きい。また、車載用バッテリーやモーター、地上用水素ガスタービン技術など、日本企業がこれまで培ってきた技術は海外の航空機OEMからも注目されている」と話す。「特にこうした電動化や水素の活用においては、従来、航空機分野に携わっていなかった企業が新たに航空機サプライチェーンへ参画することにも期待している。航空機産業は認証等の問題があり、参入のハードルが高いと言われているが、政府としてもしっかりサポートしたい」と新たな企業による航空機産業への参画に期待感を示した。

水素航空機の実現に向けた技術開発・インフラ検討にも着手

こうした日本企業の強みを生かすため、政府も積極的に取り組んでいる。

先に述べた菅首相の宣言を受けて、政府はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)に2兆円の「グリーンイノベーション(GI)基金」を創設し、CN実現の鍵となる革新的技術について、具体的な目標とその達成に向けた取り組みへのコミットメントを示す企業等に対して、10年間、研究開発・実証から社会実装まで支援することを発表した。「GI基金」における具体的なプロジェクトとして、航空機関係では、液化水素燃料貯蔵タンクやエンジン燃焼器など、「水素航空機」に必要なコア技術の研究開発・社会実装に向けた支援を検討している。以前より経済産業省が国家プロジェクトとして推進してきた航空機関連の素材や電動化の事業は引き続きNEDOを通じて実施する。

また、水素航空機の実現には、機体やエンジンの開発に加えて、水素燃料に合わせた空港インフラの確立も不可欠だ。水素燃料の輸送、貯蔵、供給設備や整備等、多くの課題を分析する必要があり、それにはエアライン、エネルギー関係メーカー、航空機製造メーカー、関係各省等、様々な立場からの知見が不可欠だ。経産省は、こうした知見を結集し、日本における水素航空機向けのインフラ検討を早急に進めるため、「水素航空機の実現にむけた空港周辺のインフラ検討会」をこの夏に立ち上げる。検討した内容は、海外政府と定期的に情報交換することで、海外との連携も図っていくと言う。

新型コロナウイルス感染症により、業界全体が苦しい中、我が国航空機産業の将来の飛躍のためには今が正念場だ。政府も様々な取り組みを打ち出している。日本企業の強みを生かしながら、どのようにスピード感を持って海外と連携を深めていくことができるか。技術力、交渉力等を総動員することが鍵となりそうだ。

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