コロナで業績悪化の航空機業界、強まる「脱炭素化」の声にどう応える?

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航空機業界は、新型コロナウイルス感染症により、大きな打撃を受けている。一方、航空機分野への「脱炭素化」の世界的な要請は一段と高まりを見せている。こうした中、アフターコロナを見据え、どう脱炭素化と向き合い、実現していくのか。JAL(日本航空)と航空機部品メーカーの多摩川精機の2社を通じて、2050年に向けた脱炭素化の未来図を追った。

航空機業界を取り巻く状況

新型コロナウイルス感染症の拡大により、航空機による旅客需要は大きく落ち込んでいる。感染症の拡大前の2019年水準に戻るまで4、5年かかるとされている。旅客需要の減少でエアラインの収益は大幅に悪化し、エアラインに航空機を販売する航空機メーカー、航空機部品メーカーにも大きな影響を及ぼしている。

一方で、航空機分野には「2020年以降、国際航空における温室効果ガスの総量を増加させないこと」「2050年時点で2005年比半減させる」という2つの国際的な目標が定められており、エアラインは、厳しい情勢ではあるものの、これらの目標に向けた取り組みを求められている。

国際航空からのCO2排出量予測と排出削減目標のイメージ(国際民間航空機関発表)

CNに向けたビジョンを描く

JALの2021年3月期連結決算は、コロナの影響で、売上収益が前期比で約65%落ち込んだ。そのような状況下においても、国際目標を達成すべく、5月に発表した中期経営計画では、「2050年までのカーボン・ニュートラル(CN)に向けたロードマップ」を明示。CO2(二酸化炭素)削減に向け具体的な方策を盛り込み、「省燃費機材への更新」、「運航の工夫」、「SAF(持続可能な航空燃料)」の3本柱で、CNを実現していくとしている。

JAL経営企画本部の小山経営戦略部長は、「環境に対する国際的な関心の高まりを強く感じている。特に欧州では、CNに対応していない航空機は着陸できないということも今後起こりうる」と危機感を強める。

JALの小山雄司部長

環境貢献へ期待大きい水素航空機

3本柱のうち、「省燃費機材への更新」については、燃費の良い機体の導入を加速する他、将来的には水素を燃料とする水素航空機、電動航空機など次世代航空機の活用を視野に入れている。国際的にはエアバスが2035年までに水素航空機の実用化を目指すとしている。

しかし、燃料として水素を利用する場合には、水素燃料の輸送、貯蔵、供給設備など、空港周辺インフラ等の整備も不可欠だ。また、水素航空機、電動航空機では、航空機の大型化や長距離飛行を行う上での課題も多いとされる。そのため、もう一つの柱である「SAF」も安定的に調達していく必要がある。

SAFは、主に都市ごみ、木材、植物/動物油脂、廃食油、藻などの材料からつくる燃料で、従来のジェット燃料よりライフサイクルでのCO2排出量が少なく、環境に優しい。JALは、2030年に全燃料の10%をSAFに置き換えることを目指している。安定的な供給を確保するため、現在、都市ごみ由来のSAFについて米国で商用プラントを建設しているフルクラム・バイオエナジーに出資しており、今後は、丸紅やエネオスと協力し、フルクラム社の技術を活用したSAFの国内製造を視野に入れている。

小山経営戦略部長は、「将来的には、SAFの活用に加え、水素燃料や電動化など新技術を用いた航空機の活用がCNの実現につながると期待している。一方で、水素燃料については、運搬・搭載するための機体やインフラ整備に向けた課題も多い。早め早めに検討を進めなければならない」とし、水素航空機の実現に意欲的だ。

航空機の電動化でCN実現へ

エアラインにおいて、CNの取り組みが進められる中、日本の航空機部品メーカーでも、種々の課題に取り組むべく、技術を磨いている。

多摩川精機は、老舗の精密部品メーカー。航空機向けに、パイロットコントロールシステム用センサーやモーター、バルブなどを手がける。EV(電気自動車)向けの角度センサーは世界シェア約7割を誇る。今期は、FA(工場の自動化)向けとEV(電気自動車)向けが好調なものの、民間航空機関係の売上げはコロナ前の水準の約6割に落ち込んだ。

電動化・自動化の流れを見据え、コア技術を生かした開発を進めていく

現在、多摩川精機では、電動航空機に向けたモーター開発について取り組んでいる。多摩川精機の熊谷秀夫専務は、「民間航空機は、需要が改善するのに時間がかかる。それまでにCNにつながる電動化の技術で認証を取得したい」と話す。

なぜモーター開発が航空機のCNにつながるのか。現在、航空機は化石燃料由来のジェット燃料をジェットエンジンで燃やして推進力を得ているが、モーターやバッテリーなどを活用し、ジェット燃料の代わりに電気を用いて推進力を得ること(エンジンの電動化)ができれば、ジェット燃料の燃焼によって発生するCO2を削減することができる。

同社は、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の先導研究プログラムに、2019年から参画。最大出力20キロワットのモーターの開発に取り組む。このモーターは、大型航空機の内部の電動化やドローン向けに開発しているが、超軽量航空機などの補助動力としての搭載も狙える。熊谷専務は、「3年程度で型式認証がとれるぐらいに進む」と予想する。将来、さらに出力が向上すれば、空飛ぶクルマ、プロペラ旅客機などに応用でき、航空機の電動化に大きな役割を果たすと期待される。

多摩川精機の熊谷秀夫専務

日本初の重要装備品の認証取得に向けたチャレンジ

こうしたモーターをはじめとして、航空機の機体およびエンジン以外の機器類は、装備品と呼ばれる。多摩川精機の熊谷専務は、「日本国内で認証取得プロセスを蓄積することが重要」とし、日本における重要装備品の認証取得第1号を目指している。

装備品を機体に付ける際は、JCAB(国土交通省航空局)の認証取得が必要だ。これまでは、日本企業が装備品事業に参入する際、海外企業との共同開発という形をとっており、海外企業を通じて海外の航空当局(米国のFAA(連邦航空局)等)の認証を得てきた。日本企業が独自に開発し、JCABの認証を得た例はない。申請する側、審査する側、共にノウハウ・経験に乏しい。

多摩川精機は、3年前からJAXA主導のイニシアティブを通じて認証取得に向けた手続きに取り組んでおり、この組織を引き継ぐ形で、今年度からは民間主導のコンソーシアムを設立した。これらのコンソーシアムには経済産業省もメンバーとして参画し、連携して活動を行っている。

今回の申請手続きで一つひとつの記録を保存・記録し、見える化し、次に続く企業が認証を取りやすくする。JCABの認証が取れれば、欧米での認証取得につながる。実現すれば、重要装備品で初のケースとなる。

JALも多摩川精機も、新型コロナウイルス感染症の影響で厳しい環境の中、将来を見据え、航空機のCNに向けた戦略を着実に進めている。それぞれの取り組みの展開に今後も注目していきたい。

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