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運転開始40年以上の原発が国内初の再稼働。関西電力が解決すべき課題

運転開始40年以上の原発が国内初の再稼働。関西電力が解決すべき課題

脱炭素の重要電源の1つとなる原発は、長期の安全稼働に向け技術を磨き続けなければならない(関電美浜原発3号機)

関西電力は29日、美浜原子力発電所3号機(福井県美浜町)の発送電を始めた。東京電力福島第一原発の2011年事故後の新基準の下、運転開始40年を超えた原発が再稼働するのは国内初。原発の長期運転に向けた第一歩となる。関電は国が目指す50年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を追い風に、同じ40年超の高浜原発1、2号機(福井県高浜町)も再稼働し、新たな成長軌道を描く狙いだが解決すべき課題も残る。(編集委員・錦織承平、同・板崎英士、福井支局長・佐々木信雄)

「40年超原発」では国内初

関電の森本孝社長は美浜3号機起動後の25日、40年超原発について「資源の乏しいわが国では3E(安定供給、経済効率、環境保全)に優れる原発の役割は大きい」とし、安全を前提に有効活用する方針を強調した。

福島第一原発事故後、原子炉等規制法の改正で原発の運転期間は原則40年とされ、新規制基準に適合すれば1回限り最長20年の延長が認められる。運転開始して44年以上が経過した美浜3号機は、11年5月に定期検査に入って以来、約10年ぶりの再稼働となる。7月27日に営業運転を始める予定だが、テロ対策施設の完成が遅れており、同施設の設置期限前の10月23日、定期検査に入る。このため、年内の再稼働は難しいと見る向きが多い。

関電の11年以来の原発安全対策費用は総額1兆2100億円程度となる見込みで、20年度までに9426億円を投資済み。美浜3号機が再稼働しても、直ちに業績に貢献するかは見通せていない。

一方、再稼働は4カ月程度の短期間だが、40年超原発の経年劣化の影響を調べられ、長期停止した原発の再稼働に関する知見やノウハウも得られる。高浜1、2号機にもその経験は生かせる。高浜1、2号機もテロ対策施設完成のめどが立たず再稼働時期は見通せないが、美浜3号機を含む3基を早期に稼働して原発7基体制を実現。火力発電燃料などのコスト削減を進めて経営を安定させ、成長軌道に回帰する考えだ。

火力減→経営安定も、課題多く

ただ、残された課題も多い。一つが使用済み核燃料の中間貯蔵施設の候補地問題だ。美浜3号機再稼働に地元の福井県が同意した条件の一つとして、関電が同施設の候補地を23年末までに県外で確定するとした約束がある。果たせなければ40年超原発の稼働を止める内容だ。森本社長は「国や電気事業連合会と連携してあらゆる可能性に全力で取り組んでいる」とするが、関電が施設の共同利用を期待した青森県むつ市はその可能性を全面否定。関電は40年超原発を再稼働しても、時をおかずに同施設の候補地確定期限が迫るという厳しい状況にある。

また、関電は30年頃に原発7基と再生可能エネルギーなどを組み合わせ、発電量の6割程度のゼロカーボン化を見込むが、50年には関電の運転60年未満の原発は大飯3、4号機(福井県おおい町)の2基のみとなる。そのため50年のカーボンニュートラル実現に向け、水力、洋上風力、水素といった再生エネの開発に取り組む一方、次世代軽水炉、高温ガス炉、小型モジュール炉(SMR)などによる原発の新増設やリプレースを実現したい考えだ。ただ、国がこの夏に改定する第6次エネルギー基本計画では新増設やリプレースの方針がどの程度盛り込まれるか見通せず、議論の進展を待たざるを得ないのが実情だ。

日本の原子力産業 経済界「活用すべき」

国内には廃炉が決まった24基を除き現在36基の原発があり、稼働するのは関電が5基、四国電力が1基、九州電力が4基で合計10基となる。

原発再稼働に当たっては原子力規制委員会の新たな安全基準に基づく適合性審査に合格しなければならない。すでに許可済みが東北電力の女川2号機など4事業者6基、審査中が7事業者11基、未申請が4事業者9基。許可済みのうち東電の柏崎刈羽6、7号機は許可後にテロ対策の重大事案などが発覚し、再稼働には追加検査に合格する必要がある。

世界では米国を中心に原発の運転を延長する方向にある。日本原子力産業協会の調べによると1月時点で、稼働中の原発は434基で40年超え運転は2割強の95カ所。米国では94基中86基に60年までの運転を認め、46基が40年超えで運転中だ。また4基には80年までの運転を認めている。

世界は運転延長の流れ SMR化へ技術継承重要

50年のカーボンニュートラルに向け、国が策定中の次期エネルギー基本計画で原発をどう位置付けるか注目される。現行計画では「原発依存度を可能な限り低減する」とし、エネルギーミックス(電源の最適組み合わせ)では20―22%。次期計画では再生エネ比率を大幅に上げる方針は決まっているが、原発は10―20%の間でまだまとまっていない。近年の原発比率の実績は5%前後だ。経済界は「確立した脱炭素電源として一定の活用を」(経団連)、「安全性の確認された原発は可能な限り活用すべきだ」(経済同友会)と、脱炭素と経済活動が両立しやすい原発に期待している。

電力会社などの原子力人材と予算は10年ごろのピーク時から半減。原発の立ち上げに携わった技術者はわずかとなり、技術継承が切実な課題だ。さらに世界の潮流は管理しやすく低コストのSMRに移っているが、国内での新増設が認められないと、日本の原子力産業はこうした最先端の技術開発で世界に置いていかれる懸念もある。

福井県の動き 共創会議に期待 将来像と実行計画議論

原発立地地域の将来像を考える共創会議の初会合が、21日に福井県敦賀市で開かれた。福井県と立地地域の4市町(敦賀、おおい、高浜、美浜)の首長や国、電力会社などが参画。4市町の計画や県の論点などを説明後、秋の会合で素案をまとめる旨を確認した。

福井県は県南部の嶺南地域に原発15基が立地する。ただし7基は廃炉が決定済み。40年超原発の安全な再稼働を各首長は歓迎する半面、将来の懸念も抱える。そこに国主導で、将来像と実行計画を作るのが共創会議だ。杉本達治知事は「ぜひ国、事業者で主体的に新プロジェクトを」と、共創会議に期待する。

50年来、国の原子力政策に協力する福井県。基本姿勢に変わりはないが、40年超再稼働の議論は揺れた。県は当初、使用済み核燃料の中間貯蔵施設の県外候補地の確定を前提とし、議論は立ち往生した。そこを修正したものの、迎えた3月県議会は最大会派が結論を見送り、知事に仕切り直しを求めた。

それらを踏まえ、杉本知事は共創会議の場で原子力政策の明確化を国に強く注文した。

日刊工業新聞2021年6月29日

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