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若手研究者の育成に見る東北大の存在感、資金かけずに刺激

若手研究者の育成に見る東北大の存在感、資金かけずに刺激

東北大学公式インスタグラムより

東北大学は若手研究者育成で二つの仕組みを立ち上げ、多数の支援策と合わせた「若手躍進総合支援パッケージ」を構築した。同大は東京大学京都大学に次ぐ規模ながら、多様な独自の予算制度が功を奏し近年、国の若手支援事業で採択数1位が続く。研究力向上にもつながるため、若手育成で他大学をリードする戦略を打ち出した。(編集委員・山本佳世子)

近年、解決策の決め手がなかった若手研究者の育成問題は、ここへきて明るい雰囲気が生まれている。政府の10兆円ファンド計画と、実施までの中心施策となる複数の文部科学省事業が本格化したためだ。こうした動きに先駆けて東北大は存在感を放っている。

一つは研究室主宰者(PI)へ階段を上がる段階の若手が対象の「創発的研究支援事業」だ。競争率約10倍の中、採択件数1位は27件の東北大、2位は22件の東大だった。大学が資金を出して博士後期課程学生を後押しする「大学フェローシップ創設事業」は、1位が120人の東北大、2位が110人の東大だ。東北大の博士学生数は東大の半分以下だけに健闘している。

東北大は独自財源の総長裁量経費などで他大学に比べ多様な学内支援を進め、成果が花開きつつある状況だ。同大学際科学フロンティア研究所(FRIS)に50人規模の助教が所属し、教授ら多数のメンター(助言者)が付く仕組みも大きい。科学研究費助成事業の採択やトップ10%論文割合で、同大の若手は全国平均の若手より業績が高いのだという。

4月に始めた施策の一つが持続可能な社会の実現を阻む課題解決などに向け、人文・社会科学と自然科学が連携する若手中心の異分野融合事業だ。分野融合はイノベーション創出の実績で強調されるが、実現にはハードルが高い。同大は1プロジェクト3年間で最大150万円の資金支援で挑戦を促す。

もう一つは独創的な研究に挑戦する助教向け「プロミネント(卓越した)リサーチフェロー」制度だ。審査を経て同フェローの称号が与えられる。名誉と対外的なPRがインセンティブとなる。

他大学は「特別栄誉教授」「卓越教授」など上級の称号に限り授与することが多い。対して同大は若手に刺激を与えるための称号の授与に積極的だ。45歳未満の教員向けに年12万円の給与上乗せがある「ディスティングイッシュトリサーチャー制度」も整備済みだ。

小谷元子理事・副学長(研究担当)は、任期制で人材が流動化しやすい優秀な若手に対し「本学に居続けてもらって研究力を強化する」ことが狙いだと説く。そのため「若手を保護して支える発想ではなく、優れたアイデアや研究を生かす環境を用意するべきだ」と強調する。

若手育成は各大学で重視しているが、国費100%でないフェローシップ事業のように大学の予算投入を経営層がどう判断するかで違いが出る。今後の研究力に対する影響を含め、各大学の判断が問われそうだ。

日刊工業新聞2021年6月10日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
東北大は学内の研究費支援プログラムも多く持つが、これは独自資金が必要なため真似できない大学も少なくない。一方、参考にできそうなのが、若手に対する称号授与だ。企業など外部機関にアピールをする上で称号は有効で、そこで研究費を獲得していく流れが期待できる。若手間での刺激になる上に、3年など期間が決まっているだけに、本人も次のステップを目指して張り切ってくれるだろう。

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