東大・京大・東工大、国立大の事業子会社がビジネス拡大に動き出した

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東工大子会社のTTIはAIのウェブ研修・講座などに力を入れる(同社提供)

研究・産学連携と財務基盤強化の好循環を担う国立大学の事業子会社がビジネス拡大に動きだした。事業子会社の中にはメーカーなどの共同研究で主体となり、教員を兼業などで雇用して成果創出を目指す会社がある。国立大学法人法の改正が今国会で成立すれば、大学発ベンチャー(VB)を事業子会社として直接出資することも可能となる。指定国立大学で試行した事業を全国立大に拡大するケースもあり、どの事業を選択するかが各大学の戦略になってきそうだ。(編集委員・山本佳世子)

外部活動に注力 産学のズレ解消

国立大の研究力を活用した事業子会社は、大学の独自財源となるとともに、数年前から事業対象を広げる議論がされてきた。

以前から参入が可能だった技術移転機関(TLO)、ベンチャーキャピタル(VC)以外では指定国立大で研究成果を生かした研修(組織向け)・講習(個人向け)とコンサルティングが近年、可能となった。現在、東北大学など4大学の子会社5社が活動している。

大学が寄付金など自ら集めた資金を事業子会社の資本金に投入してまで外部の活動に力を入れるのは何故か。それは「大学の改革努力で可能な活動もあるが、“出島”のような外部組織にしないと実際は進まない」(内閣府科学技術・イノベーション推進事務局)ためだ。

例えば、産学共同研究では(1)教員は論文につながらないテーマに消極的(2)多額の資金を企業から引き出せる優秀な人材を5年任期の大学予算では集められない(3)意思決定のスピード―など産学にズレがあるといった課題が解決できずにいた。

産学共同研究を事業子会社で手がけるならば(1)教員は兼業の収入でやる気になる(2)専門人材を社内で育て、成果報酬で高い給与も出せる(3)企業同士の契約、交渉、成果確約でズレがなくなる―など変わってくるのだ。

事業子会社の活動については政府の委員会で大阪大学や山形大学が案を披露している。TLO、VC、研修・コンサルティングといった複数の企業を持つ指定国立大からは持ち株会社の希望も挙がる。取り組みはさらに広がりそうだ。

企業ニーズ対応、関係構築

東工大・共同研究、内容ですみ分け

事業拡大で最も積極的なのは東京工業大学だ。事業子会社のトーキョー・テック・イノベーション(TTI、東京都目黒区、延(のぶ)善洋社長)は、2020年4月に設立。新型コロナウイルス感染症の流行もあって、データサイエンスと人工知能(AI)のウェブ研修・講習に注力した。

最も定款には人材派遣やブランドイメージ構築などの事業も記されている。延社長は「研究フォーラムの宣伝で我々が元請けになれば、大学でしづらい随意契約が特定の広告代理店で可能になり、継続的な関係を構築できる」と、メリットを説明する。

同大が研究大学として重視するのは企業との共同研究だ。佐藤勲理事・副学長は「試作品の開発・販売など資金やモノが動くならTTIで基礎的な共同研究なら学内で手がける」と、すみ分けのポイントを挙げる。従来より企業ニーズに沿った取り組みにより、より多く共同研究費を受け取れると期待する。

次に狙うのは施設・設備の学外利用。同大は光熱水費や研究室のスペース当たりの家賃などの算出で他大学をリードしている。産学連携する企業への説明責任と教員の意識改革で進めてきたが、TTIが顧客企業に示す利用価格の根拠としても有効だ。

また、大岡山キャンパス(東京都目黒区)は駅前で交通の便が良い。益一哉学長は「事業子会社で学会開催時の運営や、夏期に外部の生徒・学生を迎えるサマースクールなどできないか」と、さらなる夢を描いている。

ただ、VCを通さずに大学発VBへ直接出資するのは当面、様子見となりそうだ。同大では「話題に出ている程度」(佐藤理事)。連携するVCがある一方、大学自身の目利きの経験がないためだ。

東大・大学発VBに直接出資も

一方、東京大学の藤井輝夫総長は「大学発VB支援で、これまでと違う手段が用意された」と、大学発VBへの直接出資を好意的に捉える。すぐの計画はないが「検討の余地はある」という。東大は関連VBの数やタイプ、上場実績など他大学を圧倒する蓄積や経験があるだけに、今後の方策に注目が集まりそうだ。

また、直接出資はむしろ地方大学で有力との声もある。VCを独自に持つ体力はなくても、これぞという1―2の案件に対して地方銀行などと協力してVBを育てていく形が考えられそうだ。

京大・窓口サイトで振り分け

設立が18年6月と他の国立大の中で最も早く、実績が高いのは京都大学の事業子会社である京大オリジナル(京都市左京区、佐々木剛史社長)。事業の一つである研修・講座ではエグゼクティブ向け研修、AIなどプロフェッショナル講座、学内部局が手がけてきた一般の教育講座の3タイプにまとめ直した。

東工大子会社のTTIはAIのウェブ研修・講座などに力を入れる(同社提供)

佐々木社長は「我々は、利益率の高い活動に集中する通常の企業とも、教員の思いを優先する大学の1組織とも違う。約20人の従業員を抱え、どのような経営指針にするのかが悩ましい」と打ち明ける。

4月に同社を含む京大傘下のTLOやVCとの3社共同サイト「Philo―(フィロ)」を開設した。同サイトを窓口として、同大に寄せられる産学連携のニーズが3社や学内に振り分けられる。“京大グループ”の強みで持続可能な経営を考える一策でもある。

採算性が課題なのはどの事業子会社も同じだ。事務所の賃貸料や協力してもらう教員の人件費などの支払いがある。多くは100%子会社のため、赤字が累積しては大学にマイナスとなる。

制度として約20年の歴史があるTLOも、案件が多い大規模大学なら独立採算の会社型が候補になるが、中小規模大学は学内組織が向くと言われている。

重点は研究か教育か地域か、単科大か総合大かなど、それぞれの特色に合わせた設計が今後必要となりそうだ。

関連記事:大学発ベンチャーへ出資解禁、指定国立大で期待される効果

日刊工業新聞2021年5月7日

COMMENT

山本佳世子
編集局科学技術部
論説委員兼編集委員

「指定国立大の位置づけがわからない」との声をよく耳にしていたが、ここへ来て急速に対象を広げる、国立大の事業(ビジネス)でその役割を実感し た。表でわかるように「課題がないか、全国立大で可能かどうかを、まず指定国立大で探る」といったミッションが明らかになっており、なるほど有効だと感じている。何年か後には「事業の制限はなし」となるのかもしれない。元手が自己資金という条件さえ付いていれば、納税者としての納得も得られ、まんざらありえないことではないだろう。ただ、コンサルと研修・講習という多くの大学(地域貢献の地方大学も含め)が夢を描ける事業において、先進大学の子会社の黒字化が出てこないと、広がりはとても期待できない。5年後あたりにどのような記事が書けるか、自分でも楽しみにしている。

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