女性が技術革新を後押し!欧米で広がる「ジェンダード・イノベーションズ」という考え方

お茶の水女子大・名古屋大の佐々木成江准教授に聞く

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近年、研究開発において、性差を考慮する「ジェンダード・イノベーションズ」という考え方が欧米で広まりつつある。また、女性特有の健康問題を技術力で解決する製品・サービスである「フェムテック」が台頭している。いずれも女性が直面する課題に向き合う点で共通している。科学技術分野におけるジェンダー平等の実現に向けて、第一線で活躍されているお茶の水女子大学/名古屋大学准教授の佐々木成江先生に、ジェンダー平等の実現のための解決策と青写真を伺った。

女性研究者は増えてはいるが、スピードが鈍い

―日本でのジェンダー平等の実現に向けた動きについて、どう分析されていますか。

「様々なデータを見ていると改善傾向はみられますが、世界経済フォーラムが2021年に発表したジェンダー平等指数ランキングでは、日本は153カ国中120位という非常に低い結果でした。これは、世界の流れと比べて改善スピードが非常に遅いことが原因です。この15年間のジェンダー平等指数の伸び幅は115か国中、後ろから9番目。G7(先進主要国)のほかの国は、日本の3.5―12倍のスピードで改善してきています」

「また、日本の研究職・技術職に占める女性の割合も16.9%(2020年)で、OECD(経済協力開発機構)加盟国で最下位です。女性研究者も着実に増えていますが、ここ20年で6%しか増えておらず、今のスピードだと、韓国の割合に追いつくには10年、フランスやドイツには約30年、米国には約50年かかります」

「特に、企業や大学における理工系分野の女性研究者・技術者割合が低いことが問題です。例えば、理学分野における国立大学の女性教授は全国で99名(5.1%)しかいません。こうした状況を打破するため、第5次男女共同参画基本計画では上位職(教授・准教授)や理工系分野の女性教員割合の目標値が初めて設定されました。とてもチャレンジングな目標値で、従来の2-3倍のスピードが求められ、30%に到達する時期も現在の40年後から13-20年後に短縮できます」

女性が活躍することによる効果について日本全体で意識を共有する

―日本が遅れを取り戻すには何が必要ですか。

「日本は両立支援などの環境を整えて、計画を実行しようという感じです。一方、海外は、あらかじめ一定数を決めて女性を登用するクォータ制で強制的にトップの数を増やしています。数は、根本的な問題です。制度を変える場面や、意思決定者に女性がいないとスピードを上げられません」

「私が所属している名古屋大学生命理学専攻では、10年で女性教員の割合が3%から25%に上昇しました。女性教授の登用数を増やしたことで大きく流れが変わりました。教員全体の意識が変わり、その後は自然と女性研究者が続いて採用されています」

「なぜ日本で女性の登用数がなかなか増えないのかというと、女性が増える効果を理解していないため、モチベーションが上がらないからです。海外では、女性が入ることで多様性が向上し、大きな経済的効果をもたらすことがデータで示されています。また、ゴールドマン・サックスの『ウーマノミクス5.0』では、女性のフルタイム勤務が増え、男女の労働時間格差がOECD平均まで改善すれば、日本のGDPが最大15%向上すると試算しています。日本の経済発展にも不可欠なのです。日本の一部のトップ層は、すでに女性活躍を経営戦略と深く結びつけていますが、日本全体でこうした意識を共有することが大切です。さらに、科学技術分野でも、性別の多様性が高いチームの方が論文の引用件数が高く、特許の経済価値も上がることが示されています。多様性が高まれば、様々な視点から疑問が生まれ、その解決策や考察にも幅や深みが出るのです」

性差を考慮した研究によってイノベーションを起こす

―近年、「ジェンダード・イノベーションズ」という概念を欧米諸国は採用し、それに基づく政策を進めています。その背景をどう分析されていますか。

「研究チーム内に女性が少ないことは、目に見えるので気付きやすいのですが、実は医療や製品・技術開発の多くが男性を対象とし、研究の方法や目的でも女性が見過ごされていることが分かってきました。例えば、生物・医学分野では、動物実験でオスを多く使います。メスはホルモンによる性周期の影響を受けデータがぶれやすく、解析がオスより難しいからです。また、妊娠を考慮して臨床試験の女性被験者数も少ないです。その結果、男性のデータが一般化され、女性の体や病気に関する知識が蓄積できていません。また、工学設計においても、男性が標準とみなされることが多く、女性の健康に被害をもたらす製品事例が数多くあります」

「『ジェンダード・イノベーションズ』は、今まで見過ごされてきた性差(生物学的・社会学的)に積極的に着目して、イノベーション創出につなげる戦略です。新しい医療、製品、プロセス、サービスだけではなく、新市場やビジネスチャンスにもつながります。実際、性差に着目することで、女性に適した投薬量、検査法、治療法が分かり、新薬開発にも役立っています。また、男性にとっても、例えば女性の病気として見過ごされてきた骨粗鬆症で、治療の遅れによる死亡リスクが女性より高いことが分かるなど、男女ともにメリットがあります」

女性が増えると、新分野創出の原動力となる

―日本が「ジェンダード・イノベーションズ」を進めていくにはどうすべきでしょうか。

「海外では、性差解析を取り入れることが研究助成の要件になってきており、その対象は、米国やカナダでは主に医学分野、欧州では科学や工学の137分野に及びます。日本は遅れていますが、今回、第5次男女共同参画基本計画や第6期科学技術・イノベーション基本計画にジェンダード・イノベーションズ推進に関する文言が初めて加わりました。ようやくスタート地点に立った感じです。ジェンダード・イノベーションズによる新研究分野創出は、女性研究者を増やす効果もあります。日本も、女性研究者を増やすとともに、ジェンダード・イノベーションズを推進するための研究助成や拠点設置が重要だと思います」

佐々木成江准教授
―フェムテックとジェンダード・イノベーションズは女性のための課題に向き合うという点で似ているような印象を受けます。

「ジェンダード・イノベーションズは、研究や技術開発に性差解析を取り入れて女性のための課題を多く見つけており、フェムテックは、技術を使って女性の健康課題を解決する製品やサービスを生み出しています。どちらも、女性が社会や研究分野に進出したことで創出された新分野です。また、それらの生み出す知見や技術、サービスが広がることで、ジェンダーに関する意識が高まり、真のジェンダー平等の促進にもつながることが期待できます。フェムテックは、女性ならではの課題に共感でき、かつ、女性の使用者に近いため女性起業家が牽引している事例が多いですが、女性研究者が起業するケースもあります。例えば、最先端の超音波技術を利用し乳房をベッドの穴に入れるだけで高精度な検査ができる装置が開発されています。乳がん検査では、マンモグラフィーという検査機器が使われていますが、乳房を圧迫するため、女性にとって苦痛を伴っていました。最先端技術に近いところに女性研究者がいたからこそ、開発できたと思います」

IT分野など新分野で女性人材を育成する

―ジェンダー平等に向けて、日本が取り組むべき課題は何でしょうか。

「新分野は、歴史が浅いため固定概念に縛られにくく、女性参画が実現しやすいと言われています。例えば、再生エネルギー分野は、他のエネルギー分野と比較して女性割合が高く、女性が最高経営責任者(CEO)を務めている企業も海外では多く見られます。また、IT業界も女性人材が求められています。AI(人工知能)分野のジェンダーギャップ拡大は、ジェンダード・イノベーションズで解決すべき課題です。例えば、アマゾンのAIを使った人材採用システムは、AIが学習に使うデータにバイアス(偏見)があり、女性や女子大といった言葉が入ると低く評価してしまうため、使用が停止されました。また、顔や音声認識では女性認識が劣っています。これらは、開発者に女性人材が少ないことが原因の一つと考えられています」

「こうした急成長が見込める新しい未来の仕事に女性を積極的に送り込み、革新的な人事システムで男女間の偏りを是正することは、ジェンダー平等の早期実現に効果的です。特に、IT業界はいつでもどこでも仕事ができるため、地方でも就業可能で、地方創生にもなります。さらに、賃金が高く、男女の賃金格差の是正にもつながります。また、未来の人材のために女子中高生の理系進学率を上げることも重要です」

「日本においても、早く多様性の効果を意識し、多様な人材の育成や、多様な人材による研究を目指すことが、誰も取り残されない真に包摂的な社会につながり、イノベーション創出の鍵になると思います」

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