科学技術予算は「不十分」、悪化の一途たどる研究環境をNISTEP定点調査で検証する

現場の不満、15年間くすぶる

  • 1
  • 12

科学技術に関する政府予算は十分か。この問いに研究者たちは15年間、「不十分」と答え続けてきた。日本の研究環境への認識は悪化している。ただ、その間、国立大学は組織改革を進め、国は2016―20年の5年間で約26兆円の研究開発関連予算を確保した。しかし国や大学の施策が現場の満足度にはつながっていない。(取材・小寺貴之)

10点満点中1.5点

文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は毎年、研究者や有識者に研究環境の認識を問う定点調査を続けている。20年は第5期科学技術基本計画(16―20年度)期間への研究者の総括的な意味合いがあった。政府予算への評価は10点満点中、16年の2・1から20年には1・5へと毎年評価を下げた。5・5点以上なら問題なく、4・5未満は不十分。3・5未満は強く不十分。2・5未満は著しく不十分と評価される。

基礎研究の多様性についての問いは16年の3・3から20年に2・5、基礎研究から突出した成果が出ているかの問いは同じく4・7から3・2に下げた。突出した成果については第3期計画(06―10年度)と第4期計画(11―15年度)は低迷しつつも横ばいだったが、第5期計画の期間で評価を下げた。基礎研究の多様性はじりじりと評価を下げている。

政府予算の評価が上がったのは15年間で08―09年の一度だけだった。定点調査では科学技術基本計画の更新年に調査対象の研究者を入れ替える。期をまたいでの評価はできないが、政府予算に関しては15年間認識が悪化し続けたと言えそうだ。

まず資金増を

定点調査委員会の委員長を務めた豊田長康鈴鹿医療科学大学学長は「何年たっても改善しない。当初は中小規模大学の研究環境の悪化が激しかったが、大規模大学での悪化も進んでいる」と指摘する。本来、研究資金が集まる東京大学、京都大学、大阪大学、東北大学の4大学のグループでも認識が悪化しているためだ。豊田学長は「大学内での選択と集中で選ばれなかった研究者の不満が現れている」と説明する。大学の組織改革への評価は学長や機関長が6点台、現場研究者は16年の4・6から20年に4・1と下げた。現場と経営で認識に差がある。

司令塔機能を果たす総合科学技術・イノベーション会議への評価も同じく3・8から3・1に下げた。豊田学長は「研究者が一番苦しんでいることを解決する政策を打ち出さないことには評価されない」と指摘する。研究者と官僚の人材交流は進んでいる。必ずしも大学経営や省庁が機能不全に陥っているとは言いがたい。それでも国や大学の施策が現場研究者の評価につながらなかった。

豊田学長は「まずドイツや英国、韓国並みに人口または国内総生産(GDP)当たりの大学研究資金を増やすことだ」と話す。21年度からの第6期科学技術・イノベーション基本計画では30兆円の投資を掲げる。この5年間で研究者の認識は上向くのか注目される。

日刊工業新聞2021年5月14日

COMMENT

小寺貴之
編集局科学技術部
記者

15年間不満が増大する傾向は、大学組織内部での施策の合意形成と執行も、国という単位での施策の合意形成と執行も、うまく回っていないと言う風に読み取れてしまいます。この状況で第6期基本計画では30兆円を投入することになっていて、果たしてうまく回るのかと不安になります。これは民主主義の限界を見ているかのようです。実感なき景気回復のように、実感ある研究環境改善は果たして可能なのか。研究者のお給料を積めば気持ちは上向くのか。競争資金の採択率が上がれば、不満は緩和すとしても、それで研究計画を磨く力は維持できません。個人的にはアカデミアの研究者というものは、もう、こんな環境でもがんばれてしまう、少しクレイジーなスーパーマンと定義して最初から研究者というものへの期待値を下げておかないと、研究環境改善が満足度向上につながらないのではないかと思ってしまいます。これは国家公務員も、研究者にカウントされないテクニシャン、エンジニアもそうだと思います。

関連する記事はこちら

特集