「クイーン・エリザベス」派遣で英米蘭連合艦隊が実現へ、自衛隊が共同軍事訓練で“台湾有事”に備え
防衛省が欧米諸国との共同軍事訓練を加速している。フランス陸軍や米海兵隊と陸上自衛隊の実動訓練を11日から始めるのに続き、英国が派遣を発表した「クイーン・エリザベス」をはじめとする空母打撃群とも、海上自衛隊と共同訓練する計画が進んでいる。尖閣諸島海域では2月に、米軍が物資投下訓練を行ったことも明らかになった。中国の軍事力膨張が続き、台湾や尖閣諸島へ侵攻する可能性も取り沙汰されている。領海や領空侵犯も後を絶たず、米軍の対中優位が衰退する中、自力で防衛力を高める“時間との闘い”を迫られている。
「日英関係が新たな段階に入ったことを示す象徴だ」。クイーン・エリザベス派遣の英政府発表を受け、岸信夫防衛相は歓迎する意向を明らかにした。英国はこれまでも瀬取り対応などでフリゲートを派遣することはあったが、空母の派遣は趣が異なる。日米が掲げる“自由で開かれたインド太平洋”の維持強化に向け、英国が安全保障面で積極的に関与していく意思の証となる。
クイーン・エリザベスは満載排水量が6万トンを超える、英海軍の最新鋭艦だ。日本に寄港する空母打撃群はこれに駆逐艦2隻、対潜フリゲート2隻、補給艦2隻、原子力潜水艦が加わる。米海軍の駆逐艦やオランダ海軍のフリゲートも同行し、内容は英米蘭連合艦隊。クイーン・エリザベスには自衛隊も導入予定の垂直離着陸ステルス機「F35B」が搭載されており、自衛隊や米軍と共同訓練を行う見通しだ。
仏陸軍や米海兵隊と行う実動訓練の想定はずばり、空中機動と陸上作戦の水陸両用作戦における戦術技量向上だ。尖閣諸島や八重山列島、宮古列島などに敵が先制上陸した事態を想定し、奪還や市民の救出などを念頭に置いているとみられる。尖閣諸島の米軍の物資投下訓練とあわせ、見えてくるのは各国が中国の台湾や尖閣諸島侵攻を“現実の危機”としてとらえ、対応準備を進めている点だ。
フィリップ・デービッドソン米インド太平洋軍司令官は公聴会で「6年以内に中国が台湾に軍事侵攻する可能性が高い」と証言。中国の急激な軍事費膨張で同国と台湾の軍事力格差は開くばかり。台湾だけではない。日本、そして米国でさえも、ミリタリーバランスでは中国にかなわない状況が続いている。
自衛隊と比較すると潜水艦の数は中国が約2・5倍、近代的戦闘機の数は3倍以上。艦船数は米国防総省の報告書で米290隻に対し、中国は350隻あるとされる。台湾や尖閣諸島海域で考えると、距離の上でも中国と日米両国では大きなハンディがある。中国が直ちに大兵力を集結、運用できるのに対し、日本の佐世保や沖縄本島から到着するまでには時間がかかる。
台湾への25機の戦闘機による領空侵入、豪州に対する輸入制限の脅し、フィリピンへの偽装漁船団の大量侵入、新疆ウイグル自治区での人権侵害問題など、各国がどんなに中国を批判したり懸念を表明したりしても、同国が力を背景にした覇権行動を改めないことは多くの事実が証明している。力を信奉する相手に理が通じないとすれば、各国が結束して同盟力を高め、中国の力による野望を封じ込めるしかないといわれる。
物資船舶輸送で直接的な利害関係を持つ日米や豪州、ニュージーランド、インドに加え英国、フランス、ドイツなど、ここへ来て欧州各国で日米に同調する動きが出てきたのは明るい材料だ。
欧州各国は経済面での結びつきや期待から中国と蜜月関係の時代もあったが、新疆ウイグル問題や香港民主化運動への対応、有力ロボットメーカーへの中国企業買収の動きなどが絡んで現在では警戒感が強まっている。
軍事力強化や人権弾圧の動きに日・米・欧・豪などが結束して対応すれば、力による国境線変更や現状変更を思いとどまらせる効果がある。違う国同士の共同軍事訓練成果は、一朝一夕では現れない。指揮系統や通信系統、細かい武器や手順の違いに加え、何より相手との信頼関係醸成がある。
訓練回数を重ねるにつれ、技量向上とともに双方の意思疎通がうまく図れるようになり、いざ有事になった時にスピーディーな行動が取れる。相手の良い部分や優れたやり方を自軍に取り入れられる長所もある。こうしたメリットは、金銭的には計れない。
日本の防衛予算に対して、中国はざっと4倍だ。台湾との比較では20倍以上もある。力を信奉する相手に行えることは限られているが、それでも関係諸国は一致団結し、平和と安全を守る意思を強固に示し始めている。結束力が問われる。
(取材・嶋田歩)