在庫は工場内の「価値の流れ」を止めている?削減するメリットは

おすすめ本の抜粋「新人IErと学ぶ 実践 IEの強化書」

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IE(インダストリアル・エンジニアリング)は工場の現場をはじめとして、様々な物事を改善していくための手法です。現場ではこの手法を活かして業務を改善し、生産性の向上を図っています。しかし、一口に改善といっても、一体何に注目していけば良いのでしょうか。自動車メーカーに入社した新人IEr(アイ・イー・ヤー)の佐藤くんと、彼の先輩にあたる鈴木さんの会話を交えながら、IEを現場で実践する極意をお伝えします。

施設全体を俯瞰的に見てムダを見つける

「VSM」でモノと情報の流れのムダを見つける

佐藤くん、鈴木さんは会議室で昨日までの結果を振り返り、施設におけるムダの発見および改善の意義を確認しています。その会話から佐藤くんは、施設におけるムダは運搬以外にもあるのではないか、と疑問を持ったようです。

佐藤:工程改善の際に、工程間在庫に着目したことがありました。在庫についても施設全体で見るべきではないでしょうか?

鈴木:その通り! なぜそれが必要だと思う?

佐藤:工程だけで在庫を管理していると、工程ごとに安全を見て在庫を抱えるようになり、施設全体では膨大な在庫を抱えることになると思うんです。

鈴木:だいぶIE的思考が身についてきたわね。では、今日は「VSM(Value Stream Mapping)」を教えましょう。VSMは顧客からのオーダー情報を起点として、その情報が各工程に伝えられるとともにサプライヤーから原材料が届き、各工程を経て製品となり、顧客へ届けられるまでを1つの図に描く手法のことよ。  これは、1つの図ということに大きな意味があるの。図が分かれたり、ページが分かれたりするとムダが見つけづらくなる。ある航空機会社では会議室の壁一面に模造紙を貼って、そこに書いていたことがあったわ。

確かにノートをとるときも、ページが分れると情報を集約しにくいことは、佐藤くんも経験的に感じていました。

鈴木:この図で、モノと情報の流れを視覚化することができ、モノや情報が滞留している場所など価値を生む流れを妨げる箇所を発見することができるの。この描き方を教えるための大学の授業があるくらいの代物なので、「さあ、どうぞ」というわけにはいかないから、一緒に描いてみましょうか。

説明しながら描いたため、2〜3時間経過してようやく図1に示すVSMを完成させました。

図1 施設全体(生産〜組立工程)のVSM

鈴木:今回は教育も兼ねているので、かなり簡略化してるわよ。さらに詳細に描くこともできるけど、今回は大局的に流れをつかむということだから、部品の流れは除いて、検査は塗装工程と組立工程に含んだこのレベルにしてみたわ。  じゃ、まずは最下段の時間に着目してみましょうか。上段が停滞していて価値を与えていない時間、下段が加工していて価値を与えている時間を示しています。これによると停滞時間が21日と2時間に対して、付加価値を与えている時間は61分しかないことがわかるよね。

佐藤:何と、工場に存在している時間の99.8%が在庫として停滞しているのですか!

鈴木:いかに在庫が、価値の流れを止めているかがわかるよね。では、どうすればこれらの在庫を減らせると思う?

佐藤:単純に在庫を減らすだけではだめですか?

鈴木:あれ? 急にIE的思考ではなくなったわね。なぜ、在庫が発生しているかを考えてみて。これらの在庫は各工程の作業方法、タクトタイム、段取り替え時間、故障率などにバラツキがあることに起因している部分があるのよ。例えば、タクトタイムが長いことで後工程が止まらないようにするため、バッファとして在庫を持ってしまうようなことよ。さて、どこから改善しようか?

佐藤:圧造後の在庫が多く、停滞時間が長いため、この在庫を少なくする対策を考えます。そうすることで、製造リードタイムが減らせるはずです。

鈴木:いい視点よね。まずはボトルネックになっている部分を見つけて、それを解消していきましょう。

佐藤:先週教えていただいた圧造のロット生産が、在庫を増やしていると考えます。外段取りの活用などにより、ロットサイズを小さくすることで圧造後の在庫を減らすことが考えられます。

鈴木:そうね。それでは、改善する前にその効果を検証してみましょう。例えば、圧造と溶接の間の仕掛品在庫を減らすことができたとすれば、停滞時間は2日減って19日と2時間になる。これは大きな効果といえるわ。早くつくれるということは、完成車の在庫を減らせるからね。さあ、次はどうする?

佐藤:細かいことですが、圧造の故障率が他より高いことが気になります。これも、圧造後の在庫が多いことに関係しているかもしれません。この改善を試みます。

鈴木:そう、その通り! 改善を実施すると、ボトルネックが移動するの。そのボトルネックこそが、全体でかかる時間を左右する制約と考え、これに着目して改善を進める考え方をTOC(Theory of Constraints:制約理論)といいます。今日はこのくらいにして、明日も引き続きVSMを利用した改善案を考えていきましょう。

(「新人IErと学ぶ 実践 IEの強化書」pp.88-91より一部抜粋)

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書籍紹介

モノづくり変容/真の生産性向上に導くIE実践のバイブルとしてまとめた本です。活動の全体像と勘どころを対話形式で平易に伝えます。「動作」「工程」「生産ライン」「施設」「経営資源」とレイヤー別にムダ排除のアプローチを手ほどき。各種定義や分析技法などもやさしく図解しています。

書名:新人IErと学ぶ 実践 IEの強化書
編者名:日本インダストリアル・エンジニアリング協会
判型:A5判
総頁数:208頁
税込み価格:2,420円

目次(一部抜粋)

【第1章】IEとは
Q1 IEって何ですか?
Q2 具体的にどこでどう使われるのでしょうか?
Q3 IEって工場の現場改善のために使う手法なのでは?
Q4 「ムダ」を見つけるって、どうやれば見つかるのでしょうか?
Q5 手法もいろいろな種類がありますが、どんな違いがあるんですか?
Q6 「ムダ」を見つけた後、「改善」に結びつけるにはどうしたらよいのでしょうか?
Q7 IEってどうやって学んだら職場で成果を出せるようになりますか?

【第2章】新人IErが身につけたい実践の勘どころ
2-1 動作・作業 対象:作業者
2-2 工程 対象:人・モノ・設備
2-3 ライン 対象:ライン
2-4 施設全体 対象:レイアウト・物流
2-5 経営 対象:サプライチェーン

【第3章】IEを実践するために知っておくべき基礎知識
3-1 現状を分析する手法
3-2 基本用語

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