「男性育休義務化」迫るも、取得しない理由1位は「〇〇〇」
「男性育休義務化」が迫っている。この「義務化」は、厚生労働省が発表したもので、2022年4月から企業が対象の従業員に個別に周知し取得を促すよう義務付けを開始する。厚労省の調査によると、2019年度の男性育休の取得率は7・48%。これでも7年連続で増加しているとはいえ、女性の83%に比べるとあまりに少ない。男性育休を取得したくても、制度がない、周囲の理解がない、といった声も聞かれる。男性育休取得を阻む要素とは何か。
そこで、20代から50代の男女にアンケートを取り、男性育休の実態を調査した。 アンケートは2月12―22日、全国のYahoo!JAPANユーザーを対象に行い、男女1000人ずつから有効回答を得た。年代は、男性では40代が44%で最も多く、50代31%、30代21%、20代4%。女性は40代37%、30代31%、50代23%、20代9%だった。
周囲で取得した人がいない人が7割に
まず、男性育休の現状について調査した。
「あなたが働く会社、組織の男性で育休を取った人はいますか(自身が取った方はそれ以外の人)」という問いに対して、「いいえ」と回答したのは男性69.9%、女性63.4%。男性育休がほとんどの人にとって身近ではない状況が浮き彫りになった。
また、男性に向けて「あなたは育休を取得しましたか。取得した方は期間をお答えください」という質問には、「取得していない」が88.7%を占めた。取得期間に関しても、「1週間未満」が3.8%と最も多かった。女性に対し同様に「夫・パートナーが育休を取得したことのある方は期間をお答えください」という問いを行ったところ、「取得していない」が92.7%だった。
多くを占める「育休を取得しなかった人」はどのような現状にあるか。
育休を取得したことがない人に対し、「あなたが育休を取得しなかった理由をお答えください(複数選択)」の問いでは、男女ともに突出して「制度がない」が最も多く、男性24.6%、女性26.1%だった。男性では次いで、「持っている仕事を他人に任せられなかった」12%、「言い出しにくかった」11%と、職場に関する要因から取得しなかった実情が明らかになった。
育休を取得したことがない男性に対し、「今後、機会があったら育休を取得したいと思いますか」と聞くと、34.2%が「取得したい」25.7%が「どちらかといえば取得したい」と答えた。
夫・パートナーが育休を取得したことがない女性に対して、「今後、機会があったら夫・パートナーに育休を取得してもらいたいと思いますか」との問いでは、31.6%が「取得してもらいたい」、25.2%が「どちらかといえば取得してもらいたい」と回答し、男性よりもやや低めの結果となった。
また、男女いずれも「取得したい」に次いで多かったのが「どちらでもない(わからない)」で、男性26.9%、女性30.2%。個々の状況はあるにせよ、「わからない」という回答の背景に男性育休が身近でないことも影響していると考えられる。
この「制度がない」という点に関して、男性育休普及活動を行うRespect each other代表、みらい子育て全国ネットワーク代表の天野妙氏は「『所属組織に制度がない』という人でも、法律で定められているため取得できることは知られていない。また制度があったとしても、周知されていないため知らなかったということも多い。個別周知の義務化はこれらの解消につながると期待される」と話す。
「育休を取得したくない」「どちらかといえば取得したくない」と回答した人の理由として最も多かったのは、男性「年収が下がりそう」40.9%、女性「自分の負担軽減にならない」28.9%と差異がみられた。
では、男性育休を取りやすくするためには何が必要か。
この問いには、男女ともに最も多かったのが「上司や同僚の理解」で男性22.5%、女性25.1%だった。次いで「仕事を分担しやすくする」(男性18.3%、女性15.6%)。育休制度の設置・拡充とともに、周囲の人々の理解が必要不可欠だという認識が広く浸透していることがわかった。
育休中も仕事の連絡が…
また、育休を取得した人に対して、その内容を聞いた。
男性に「あなたが育休を取った理由は何ですか(複数選択)」と問うと、一番多かったのは「妻・パートナーの負担を減らすため」が最も多く、次いで「子育てに参加したかった」。女性も「夫・パートナーが育休を取った理由は何ですか」の問いでは同様の結果だった。
「育休を取得してよかったと思うことは何ですか(複数選択)」では、男女ともに「子育ての時間が取れる」「夫婦間のコミュニケーションが取れる」「家事の時間が取れる」の順で続いた。
育休取得にあたり行った調整について聞くと、「引き継ぎ」「人員確保」「スケジュール調整」などが多く挙げられた。ただし、「プロジェクトメンバーへの業務引き継ぎは事前に行ったものの、育児休暇中も顧客対応や社内調整が発生し、完全な育児休暇はなかなか難しいと感じた」(40代、神奈川県、IT・コンピュータ)といった声もあった。
また、取得にあたり「困ったこと、不安に感じたこと」を聞いたところ、「会社の理解」(20代、神奈川県、メーカー)、「周囲の社員から『仕事をサボりたいだけだ』と思われていないか不安だった」(40代、福岡県、医療・介護)など制度だけでなく周囲との調整に苦慮する様子がうかがえた。
その中でも、「会社全体で推奨していたので不安はなかった」(30代、神奈川県、金融)というように、会社が推進しているという意見も少数ではあるが見られた。
また、2020年4月より現在までに育休を取得した男性に対し、コロナ禍の影響はあったかどうか聞いたところ、「影響はなかった」が57.5%、「テレワークが普及し取りやすくなった」が12.7%と、マイナス影響が出た人は少なかったようだが、「業績悪化で取りにくくなった」8.8%、「テレワークが普及し取りにくくなった」7.2%といった意見も見られた。
Respect each other代表、みらい子育て全国ネットワーク代表の天野妙氏は、「男性が育休を取ることは産後うつ抑止にも大いに役立つ。コロナ禍では産後うつ発症が3倍以上に増えているおそれがあるとの調査がある(※)。『命を守る』ことにつながるという認識がもっと広がってほしい」と強調する。
※2020年12月に開かれた日本産科婦人科学会の記者会見より