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「趣味の出版社」、50%以上が返本で倒産という恐怖

エイ出版社、点数増え債務超過に
「趣味の出版社」、50%以上が返本で倒産という恐怖

遊び心のある紙面づくりが支持されたが…(写真はイメージ)

「趣味」の出版社として知られたエイ出版社は2月9日に民事再生法の適用を申請した。出版不況をものともせず、販売拡大と多角化に突き進んだが、身の丈以上の経営と借入金が重荷になり、主力の出版物も同社から離れることになった。

エイ出版社は1973年、バイク総合誌『RIDERS CLUB』の出版を目的に設立。その後、アウトドア、スポーツ、ファッションなどの専門雑誌を刊行し、趣味人に評価される紙面づくりで知られるようになる。2002年の飲食事業に参入後、専門誌と関連のある事業分野に相次いで進出。ゴルフ用品店、外車販売、工務店などの多角化路線は業界でも注目され、17年3月期の売上高は100億円を超えていた。

しかし売り上げのピークを迎えた段階で転落の兆候は見え始めていた。出版点数が増えるに連れ、返本率が上昇。近年は業界平均を大きく超え、50%以上が返本されるようになった。適正化のため出版点数を減らしたが、18年3月期の売上高は78億円まで減少し、巨額の最終赤字を計上したことで債務超過に転落する。

拡大局面には問題にならなかったが、事業多角化の弊害も露呈した。出版以外の事業の黒字化は遠く、先行投資で膨らんだ借入金は50億円を超えるまでになっていた。急速に資金繰りも逼迫(ひっぱく)し、取引先への支払いにも事欠くようになる。

18年春、中小企業再生支援協議会が介入。金融機関への返済猶予が始まって以降は険しい道が待っていた。増えすぎた事業は他社に売却、経費見直しなど先送りにしてきた地味な改革が続く。だが赤字の出血は止まらなかった。スポンサーも探したが、赤字続きの出版社を救ってくれる先はついに現れなかった。

20年、事業譲渡を含む再建の望みも新型コロナウイルス感染拡大で露と消えた。遊び心のある紙面づくりが支持された同社。経営にもう少し堅実さが必要であったかもしれない。

(文・帝国データバンク情報部)
日刊工業新聞2021年4月1日

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