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経済誌は廃刊ラッシュか。老舗「商業界」が破産に追い込まれたジレンマ

デジタル対応に高い専門性も対価得られず

「商業界」、と言えば流通業界の専門誌として、よく知られた存在だった。流通業界で宿泊型の研修会「商業界ゼミナール」に参加した経験のある人も多いはずだ。しかし、4月2日に東京地裁より破産手続き開始決定を受け、その長い歴史に幕を閉じることになった。

戦後間もない1948年、初代主幹の倉本長治氏が戦前からの出版経験を生かして起こしたのが当社の始まりだ。スーパーマーケット、チェーンストアなど米国流の経営手法を日本に紹介し、それだけではなく戦後復興の中で商業が果たすべき社会的役割や商人の倫理、道徳も重んじる姿勢も示し、多くの企業経営者に影響を与えた。

60年代から70年代にかけては「商業界」に加えて、「販売革新」「食品商業」「ファッション販売」を創刊、2代目主幹となった長男の倉本初夫氏(2013年死去)も多くの著作で知られていた。

もっとも、01年6月期の年売上高が約20億円。これが19年6月期には7億円にまで縮小していた。背景にあったのは流通構造の変化。大資本の寡占化が進み、当社の得意先となる中小・零細の小売業者の経営が圧迫されて、出版部門の需要は減少していた。

「商業界オンライン」でデジタル化に対応、高度な専門性は変わらず評価されつつもそこから十分な対価が得られないジレンマを抱え、研修会も参加者数が減少。収益性が低下していた。

近年は「飲食店経営」や「ファッション販売」などいくつかの主力誌を他社へ譲渡、金融機関に対する返済のリスケジュールも行っていたという。

ただ、従業員のリストラなどには手をつけず、債務超過は拡大していたもののグループ会社も含めた財政状態にはまだ余力があったことから、今回の倒産を時期尚早、と驚きをもって受け止める向きもあったようだ。いずれにしても出版不況、専門誌受難の時代にまたひとつその灯が消えたことになる。

帝国データバンク情報部
日刊工業新聞2020年5月20日

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