松江市の“”聖なる岬”で「街のキーパーソン」が実現したワーケションの効果

連載・島根でワーケーションをしてみた #03

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美保関の夕景。大山を望む

島根半島の東端、松江市には美保関という港町がある。三方を海に囲まれた美保関は“聖なる岬”だ。有名な美保神社に祀られているのはコトシロヌシノカミであり、古事記や日本書紀の記された出雲の国譲り神話の立役者でもある。

今回ワーケーションを行ったのは、美保関随一の老舗旅館である「美保館」。明治41年竣工、本館は躯体が創業当時のまま。国登録有形文化財に指定されたという、なんともクラシックな建物だ。1階にあるアトリウムは、3階部分まで吹き抜け、天井のガラス部分から漏れる光が、レトロモダンなインテリアに反射して、とても幻想的な空間である。美保関の街の一帯は、江戸から明治にかけ北前船運行で隆盛を誇ったが、明治後期に鉄道が通ったことで徐々に寂れてしまう。さらに昭和と平成を経て、過疎化の一途をたどる……。

美保館でのワーケーションプログラム

そこで立ち上がったのが美保館の定秀陽介専務だ。代々続く旅館業の傍ら、地元食材を利用した食品加工業を起業している。また、地元観光協会長や旅館組合長を務め、地域おこし協力隊のサポートなどのまちおこしに尽力している街のキーパーソン。自身がIT企業出身ということもあり、数年前から首都圏の大手IT企業の合宿も積極的に行い、最近ではワーケーションの受け入れも可能にした。

昨年11月(全国の八百万の神々が出雲に集まる旧暦10月で、島根では“神在月”と呼ぶ)にさまざまな企業の会社員や大学院生が集まるワーケーションプログラムに参加したのが、海外需要開拓支援機構(クールジャパン)勤務の岡本真理子さんだ。それまで出張の多い仕事をしていたが、コロナ禍でほとんどがリモートワークになってしまった現在、そのメリットを感じつつも家にこもりきりに。この状況に岡本さんはストレスを感じていたが、美保館の滞在はどうだったのか?

「大好きな海を目の前にしながら、かなり穏やかな気持ちで仕事ができました。朝はヨガをやったり、夜はオーナーの話を聞きながら、豊富な魚介類がメインの夕食もいただいたり。また、普段出会うことのない他業種の方と交流することができて、とてもいい刺激になったと思います」

美保関神社

美しい海や山を眺めながらのワーク、大浴場の広々とした浴槽に身をゆだねる休息時間、冬場は夕食で新鮮なカニを味わい尽くすなどなど、五感をフル活動させるワーケーションが及ぼす効果は、数字にも反映されていた。

というのも、岡本さんは松江市のスタートアップ「ワークアット」が手がけるストレスケア計測を体験。Fitbitというウェアラブル端末を身につけ、滞在前後、滞在中の心拍数、皮膚温、睡眠スコアで睡眠の質などを計測し、ストレスを数値化するというものだ。

「私の場合、とてもわかりやすく数字に出ていて、滞在前と滞在後では、明らかにストレス度が違っていました。滞在前より睡眠効率が2ポイント以上アップし、労働生産性も滞在前より高くなったようです。これほどわかりやすく数字にでるのは面白いですよね」と朗らかに笑う岡本さん。「出雲大社にお参りして、日本の歴史を学んだのも良い経験です。またなんらかの形で再訪したいです」とも。

蟹シャブ、刺身など、蟹づくしの贅沢な夕食

リゾート地での非日常空間で仕事をすることで労働生産性が上がるのは素晴らしい。そして、できればその土地や住民と関わりを持ち、リピーターとなって何度も通ううちに“ファン”になれれば、ワーケーションがより豊かになるはずだ。

美保館では、本館以外にもいくつかの古民家を一棟貸ししており、そこでワーケーションをするのもオススメ。プロジェクター、ホワイトボードも備えているので、チームでのワーケーションも可能だ。

美保館での個人ワーク

さて、その古民家の1つには「ざくろ」という名前が付けられている。元の所有者だった女性が、何十年も前にお嫁入りした時に自分の手で植えたのがざくろだったことに由来する。ざくろは種子が多いことから、豊穣や子宝に恵まれると伝わる吉木でもある。この家で繰り広げられた幸せな出来事も悲しい出来事も、全てこの木は知っていたという、心がほのぼのとする良い話。美保関の周囲にはこのようなエピソードを持つ古い建物が数多くあるので、古い建築をめぐり、神話に彩られた歴史をカジュアルに勉強するのも、また一つの楽しみだろう。

ワークも、バケーションも、スタディも、コミュニケーションも“なんでもあり”が、一歩進んだワーケーションではないだろうか?

(取材=ライター・東野りか)

一棟貸しの古民家「ざくろ」

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