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【今日開幕】西武が目指す新時代のボールパーク「メットライフドーム」の全貌

【今日開幕】西武が目指す新時代のボールパーク「メットライフドーム」の全貌

外野は芝生からクッション付きのシートに変わった

西武ホールディングス(HD)がグループのプロ野球「西武ライオンズ」の本拠地「メットライフドーム」の3年にわたる改修工事を完了し、26日にプロ野球公式戦のシーズン開幕を迎える。

西武ライオンズオーナーの後藤高志西武HD社長は竣工式で「改修工事の目的はボールパーク化と育成強化。球場が様々なエンターテインメント性を具備し、あらゆる世代の方に試合、コンサート等のイベントをエンジョイしていただきたい」と述べた。

西武ライオンズ取締役オーナー後藤高志(右) 埼玉西武ライオンズ監督辻発彦(左)

西武HDは180億円を投じ、3年にわたる大改修を完工したが、西武が描く「ボールパーク」は、実はボール=野球だけに留まらない。野球開催日にかかわらず、いつでも多くの人々が集い、グループの中核を担う、施設。これは、野球の本場、米国でもまだなしえていない、新時代のボールパークの姿だ。

改修計画

プロスポーツチームはまず、強くなければ、ビジネスとして利益を上げるのが難しくなる。負け試合が増えれば、観客動員数は減り、それに連れてグッズの販売など関連の収入も減る悪循環に陥る。

西武は2017年11月に改修計画を発表し、17年12月から工事に着手した。まず、手を着けたのは、チーム育成の強化につながる設備の改修だ。

着手から2年後の19年に室内練習場、選手寮、オフィス棟を改修を完了。練習場は面積が1.5倍に拡大した。それまでは投手と野手が一緒に練習することができないなど、不便な点が多かったが、12球団最大級の広さとなり、メットライフドームと同じ人工芝にして試合と同様の環境を再現するなど、練習環境を大幅に向上させた。

20年はファーム球場を改修し、ドーム内では、内野指定席のシートを改修。また、野球開催日でなくても利用可能な「グリーンフォレスト デリ&カフェ」や、グッズショップ「ライオンズ チームストア 獅子ビル」をオープンした。

チームは18年、19年とリーグ優勝し、改修工事を育成強化から始めたことが、一定の成果を上げた。好調なチームに引っ張られ、19年の年間の観客動員数は約182万人と過去最高を記録した。20年はコロナ禍で観客動員が制限されたため、現状、19年が過去最高の数字となっている。

観戦満足度を向上

今回改修を完了したのは、ドーム内の設備、中でも客席だ。西武球場時代からの名物だった外野の芝生席は、クッション付きのシートに代わり、ネット裏にはホームベース真後ろで観戦できる「アメリカン・エキスプレスプレミアムエキサイトシート」をはじめ、より選手に近く、臨場感が味わえる席を設けた。

ホームベース真後ろで観戦できる砂かぶり席「アメリカン・エキスプレスプレミアムエキサイトシート」

また、プレミアムエキサイトシートの後方には、12球団最大の広さとなる「アメリカン・エキスプレスプレミアムラウンジ」を新設。同時に483人が収容可能で、野球観戦だけでなく、パーティや結婚式などにも利用が可能だ。

アメリカン・エキスプレスプレミアムラウンジ

このほか、ネット裏の上部にテーブルとソファーがボックス型に置かれたパーティーテラスなど、野球を見ながら接待などに使えたり、仲間同士でくつろぎながら楽しめる席も設けた。

ネット裏のパーティーテラス

今回の改修でネット裏には、座席を9種類設置。従来、ネット裏は全て年間指定席だったが、一部を一般販売するなど、バリエーションを増やし、誰でも購入できるようにした。

ネット裏のテーブル席

改修工事では、ネット裏が最大の難工事となった。

ドーム内の設備は野球のシーズンオフの期間にしか工事ができない。

まず、18年のシーズン終了後に、準備工事を行い、19年シーズン終了後に、上部にある座席を保持しながら、下部の土を撤去し、擁壁などを固め、空洞の箱を作った。20年の公式戦は下部が空洞の状態で実施し、シーズン終了後にラウンジなど、中の構造物を建設。改修工事のほぼ全ての工期をネット裏の改修に費やしている。

3年にわたる改修工事を完了した埼玉西武ライオンズの本拠地メットライフドーム

プロ野球の座席は、ホームベースに近く、選手に近い、ネット裏が最も高価になる。だが、メットライフドームのネット裏のスタンド部分は、階段などの最低限の設備以外は、上部の座席を支えるためにほとんどが土で埋まっており、ネット裏のスペースを十分活用できているとは言えなかった。

ネット裏は大幅に改修したものの、全体的に座席や通路にゆとりをもたせたことなどで、公式の収容人数は改修前の2018年の3万3556人から、改修後は3万1552人と、約2000人分減少した。だが、席種は14から28と倍増。さまざまなコンセプトの座席を増やし、座席の質を高めることで、スタジアム全体の付加価値を高め、観戦満足度を上げることを目指した。観戦満足度の向上は、1試合平均の動員数を増やしたり、飲食やグッズの売り上げなどの客単価を上げることにつながり、結果的に収容人数を減らしても、収益力の向上になる、と判断した。

野球だけではない「ボールパーク」

メットライフドームの最大の特徴は良くも悪くも、半ドームという密閉空間でない点だ。空調の問題などが度々指摘されるものの、改修計画では、この特性を生かして、整備が進められた。

ドーム型球場は密閉されているため、施設全体が囲われることで、面積も高さも制限ができてしまう。だが、半ドームのメットライフドームは完全に囲われていないため、周囲に際限なく、設備を設けることが可能となる。この利点を生かし、外野の後方に球場内のレストランとしては大型のグリーンフォレストデリ&カフェを設置したほか、飲食施設のスペースを設置。飲食店舗は従来から増えて77店舗となり、メニューは1000種類以上と、12球団最大級となった。

また、1000平方メートルの敷地に大型のローラースライダーなどを置いた大型遊戯施設「テイキョウキッズフィールド」や、西武鉄道の車両を1両置いた「L-train101」を新設した。

西武鉄道の車両を置いた「L-train101」

これらは、試合中に子どもも楽しめるものを想定して作られた施設。新生メットライフドームは、3世代が楽しめる球場、がコンセプト。試合開始から終了まで2時間以上かかってしまう野球の試合に、子どもがずっと集中するのは難しいため、関心がなかったり、飽きてしまった子どもたちも楽しめるように、広い敷地を生かして、こうした設備を設けた。

スライダーなどを置いた遊戯施設「テイキョウキッズフィールド」

また、これら設備は、野球開催での活用ももちろんだが、野球以外のイベントでの活用を視野に入れている。

西武は20年12月、アイドルグループ「ももいろクローバーZ」の衣装などを展示するイベント「ももクロ・ライオンZ EXPO 2020」を開催。これは、西武が野球以外ではじめて、自主興業したイベントだ。メットライフドームの敷地内にある施設を会場に展示会を行い、新設したグリーンフォレスト デリ&カフェをコラボカフェとして営業。オリジナルグッズなども販売した。開催期間18日間で約1万人が来場。プロ野球のシーズンオフの期間に、1万人がメットライフドームに足を運んだことになる。

これまで、野球以外のイベントは、あくまで会場を貸すだけで、収入は施設使用料のみだったが、今後は、改修した設備を最大限に生かし、野球、コンサート以外の多様なイベントを自主開催して、新たな収益源としたい考えだ。

今回の改修工事で、西武はドーム内のデジタルビジョンを2倍に拡大した。サブビジョンを新設し、スピーカーやデジタルサイネージを増設するなど、音響設備なども更新し、エンターテインメント性を高めた。こうした設備は、野球でもちろん活用するが、野球だけでなく、今後拡大する、野球以外のイベントに使うことも想定している。

2倍に拡大したデジタルビジョン

21年は新型コロナウイルスの影響もあり、プロ野球シーズン終了後に、自主開催のイベントがどこまでできるか不透明だ。だが、西武グループのさまざまな施設を、デジタル技術を生かしてメットライフドームで楽しめるようにするなど、これまでにはない仕掛けも検討している。

ニュースイッチオリジナル
高屋優理
高屋優理 Takaya Yuri 編集局第二産業部 記者
スタジアムやイベントホールなどの稼働率の向上は、事業者にとって構造的な経営課題。西武は改修を機にここにメスを入れ、収益性の向上を目指す。

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