東芝にファンドから買収提案。企業統治の是非、どう判断?

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18年のCEO就任以来、着実に業績を回復させてきた車谷氏

株主、企業統治に不信感

東芝は3月18日に都内で臨時株主総会を開催する。筆頭株主などアクティビスト(物言う株主)から出された、コーポレートガバナンス(企業統治)をめぐる二つの株主提案を決議する。東芝の取締役会は両提案に反対を表明した。一方で、大手議決権行使助言会社が賛成を推奨したことで、他の株主の動向は読みづらい。対立の根本は経営陣と株主の対話不足にありそうだ。(編集委員・鈴木岳志、戸村智幸)

今回の株主提案は筆頭株主のシンガポール投資ファンドのエフィッシモ・キャピタル・マネージメントと、米運用会社のファラロン・キャピタル・マネジメント系のチヌーク・ホールディングスからだ。

エフィッシモは2020年7月末開催の東芝定時株主総会が公正に運営されたか否かの独立調査を求めている。議決権行使集計業務を委託していた三井住友信託銀行の不正な処理をはじめ、集計に関して不自然な点が数多く存在すると疑いの目を向けている。

また、圧力を受けた一部の株主が議決権を行使しなかったり、議決権行使助言会社に対して圧力があったりしたとの報道にも不信感を強める。エフィッシモは実際に自らで東芝の主要株主数十社に質問し、圧力で議決権行使を断念した株主の存在を確認したという。

東芝の取締役会はエフィッシモの提案に反対を表明しているが、東芝内部からは「独立した第三者委員会を設置して調査を受け入れればいい。何も出なければ、相手も納得するのだから」との柔軟な声も聞かれる。米議決権行使助言会社のインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)はエフィッシモの提案に賛成を推奨する。

東芝にとって、より問題なのはファラロンの株主提案だ。同社は従来示されていた中期経営計画の成長戦略・資本政策が合理的な説明もなく突如変更されたと主張している。東芝側は成長戦略・資本政策について特段の変更を行っておらず誤解だと反論する。

ファラロンは、取締役会により大幅に変更した成長戦略・資本政策は株主総会で承認されなければならず、もし否決された場合などは25年度まで毎年の営業キャッシュフローの全額を株主に還元するよう定款の一部変更を求めている。当然ながら東芝はその提案に反対するが、米議決権行使助言会社のグラス・ルイスは賛成を推奨した。

「取締役会を形骸化する暴論だ。大株主からそれぞれ複数の取締役を就任させろとでも言うのか」(東芝関係者)と憤まんやるかたない。加えて、キャッシュフローの使途や内部留保の水準を中長期的に拘束するため、会社法の基本的な考え方に反するというのが東芝側の見解だ。

信託銀の議決権集計問題に波及 繁忙期の集計除外が発覚

東芝の株主総会は、総会運営の事務を受託する信託銀行で長年隠されていた問題が発覚する契機になった。東芝から受託していた三井住友信託銀行が、株主の議決権行使書を不適切に集計していたことが明らかになったのが発端だ。三井住友信託が東芝以外の受託分でも、同様の不適切集計を実施していたことや、みずほ信託銀行も実施していたことが判明した。

両社は折半出資の日本株主データサービス(ジャスト、東京都杉並区)に集計業務を委託している。同社は総会が集中する繁忙期は、作業時間確保のため、郵便局に特例で1日早く行使書を郵送してもらっていた。期限当日の到着分は、本来は期限後だとして、集計から除外していた。

東芝の20年7月の総会で、議決権が集計されなかった一部の株主が指摘し、受託した三井住友信託が9月に認めた。20年に同社は975社、みずほ信託は371社で同様の措置をしていた。両社ともに議案の成否に影響はなかったとしている。三井住友信託はこの措置を始めた時期は特定できないが、20年ほど前からと推測しており、問題は長年埋もれていた。

両社は20年12月に再発防止策をまとめ、ジャストが郵便局の私書箱に行使書を1日複数回取りに行く方法を今月の総会から取る。両社とも社長ら幹部の報酬減額処分も決めた。

三井住友信託の西田豊専務執行役員は「大変迷惑をかけ、経営陣一同重く受け止めている」と12月の会見で述べた。

一方で、抜本策である議決権の電子行使は、両社の受託分でそれぞれ約2割しか普及していない。行使の大半を占める個人株主に電子行使をどう促すかという課題が残る。

コミュニケーション不足露呈 軽視姿勢も対立に拍車

東芝、アクティビストの攻防が激しさを増す(東芝が20年7月末に開催した定時株主総会)

「村上世彰さんが車谷社長を強く批判しているらしい」と事情通は明かす。エフィッシモは旧村上ファンド出身者が設立したのは周知の事実だ。批判の要因の一つとして、東芝経営陣とのコミュニケーション不足を指摘する向きがある。

主要株主からは「車谷さんはステークホルダーとの対話を重視すると事あるごとに話しているのに、そういう場に出てこない」と不満の声が上がる。

また、東芝のアクティビスト軽視の姿勢も対立に拍車をかけた。東芝は17年末に増資を行い、アクティビストを含む海外投資家が多く株主に加わった。後の18年末に約7000億円の自社株買いを決めて1年かけて全額取得した。「その間に一流の投資家たちは保有株式を売却しており、今も株式を持っている、特にアクティビストと呼ばれる方々は売り時を逸して焦っているだけだ」(東芝幹部)と侮る姿勢も相手側を刺激したようだ。アクティビストの比率は減少傾向だが、現在も全体の2割程度を占めるとみられる。

15年の不正会計をきっかけにした経営危機からの名門再建を託された車谷暢昭社長兼最高経営責任者(CEO)。CEOとして招聘(しょうへい)された18年から東芝の業績は着実に回復しており、“プロ経営者”の実績は自他ともに認めるところだ。21年1月末に東京証券取引所1部への復帰も果たし、株価はそれ以来上げ基調だ。

東芝はキオクシアホールディングス(旧東芝メモリホールディングス)の新規株式公開(IPO)時に保有株式の一部を売却し、その手取り金純額の過半を株主還元に充てる方針だ。ただ、米中貿易摩擦などで市況回復が遅れており、20年9月末にいったん延期したキオクシアの上場は21年夏以降にずれ込む線が濃厚だ。

東芝とアクティビストの攻防は18日の臨時株主総会以降も当分続きそうだ。


【関連記事】 メモリーなき東芝の半導体事業は受託で生き残る

日刊工業新聞2020年3月17日

COMMENT

英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズなどが東芝に買収提案することが分かりました。物言う株主との対立が続いている東芝の株式を非公開化して、経営判断を速めるのが狙いのようです。東芝の車谷社長は7日朝、記者団に「提案が来ているのは事実。これから取締役会で議論する」と語ったそうです。 (上記は3月17日付の日刊工業新聞の記事です)

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