解剖できず「溺死」とするしかない…津波が露呈させた人材不足と設備不足

連載 黒い津波が残した教訓#2

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検視などを行う場所の設営時には警察官の検視が卓球台の向こうで続いていた(千葉大・岩瀬教授提供)

法医学者・設備少なさ露わ

宮城県警が東北大学災害科学国際研究所の門廻(せと)充侍助教らの研究グループに提供した2017年の東日本大震災の犠牲者情報によれば、犠牲者9527人のうち約91%の人の死因が「溺死」に分類されている。宮城県に限らず「黒い津波」に襲われた津波被災者があまりに多く、身元確認が優先で溺死と判定するしかなかったことを法医学者は証言する。

東北医科薬科大学医学部の高木徹也教授は当時、杏林大学医学部の准教授として警察庁の派遣要請を受けて、3月14日から宮城県に入った。石巻市と山元町の体育館で運び込まれた死亡者計約200体に対する警察の検視に立ち会い、検案も行った。「口の中に土砂が詰まった遺体もあった」と当時の状況を説明する。解剖できず、検案した多くを溺死と書いた。ただ、高木教授は「通常の河川で溺れ死んだ状態とは異なる。黒い津波が持つ高エネルギーによる胸部・腹部圧迫や打撃、低体温など複合的に作用するのが黒い津波の特徴」として、こうした要因が関与した死も含まれているのではないかと考えている。

千葉大学法医学教室の岩瀬博太郎教授は日本法医学会から派遣要請を受け、震災翌日、岩手県陸前高田市内に入った。13日には避難所の中学校に到着し、検視に立ち会い、約120人を検案し死体検案書を作成した。岩瀬教授は「遺体が溺死か、外傷による死亡か、低体温症による死亡なのか、解剖しなければ分からない。解剖できないので溺死とするしかなかった」と話す。大半を溺死と書いた。「胸に注射器の針を刺して液体がとれればこれを根拠に溺死と判定したが低体温症による死亡も混じっていたのではないか」と、やり場のない気持ちを明かす。

法医学者はこの震災から何を感じたのか。千葉大の岩瀬教授は「日本には大災害発生時に迅速に対応可能な解剖のできる法医学者は130人程度しかいないし設備も少ない」と問題点を指摘。解剖して死因を正確に突き止められなかったことを悔やむ。東北医科薬科大の高木教授も「遺体から採取した血液をDNA(デオキシリボ核酸)鑑定のために全量を使ってしまった。微量でも保存しておけば後で死因を正確に振り分ける重要な資料になったはず」とする。

日本法医学会理事長の名古屋市立大学大学院医学研究科の青木康博教授は「被害を軽減するに資する研究に役立つデータを残す必要性は感じている。ただ、研究利用になるため、倫理的課題もある」としている。

日刊工業新聞2021年3月9日

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