創業170年のつぼ市製茶本舗、激動時代を乗り越える「始末」の社風
つぼ市製茶本舗(大阪府高石市、谷本順一社長、072・261・7181)は、堺に創業して170年を超える老舗。激動の時代を乗り越えた先代が口癖のように語っていた言葉が「始末」だ。“経営者自らリスクを負い、物事の始めから終わりまで責任を持つ”との教訓を込めたこの言葉に、5代目の谷本社長は堺商人が持つ挑戦の気質を感じる。
国内で茶がまだ上流階級向けの高級品だった江戸末期。創業者の谷本市兵衛は業界に先駆け、米国向けに茶葉の輸出を始める。明治初期に輸出競争で他の産地に敗れてからは市場を国内へとシフト。庶民でも飲めるお茶を提供しようと小売り事業に踏み出した。
先代たちが築いた店は太平洋戦争の空襲で焼失した。焼け野原の堺で3代目の市治良が見たのが、食料品を買う金もない中、容器を手に茶葉を買い求める人々の姿だった。栄養価が高く、文化面でも人を癒やせる「お茶はすごい」。資金繰りに苦労しながら、焼け残った屋号の看板を胸に高石市へと移転し、茶葉専門の卸業として再興を果たした。
平成に入り、ペットボトル飲料の普及で茶葉が伸び悩むと、消費者に茶を直接届けるため、再び小売りの道を歩み出す。「いつか看板を堺へ」という4代目の陽蔵の願いのもと、谷本社長は2013年に念願の専門店を堺市に出店した。町屋の改装やメニュー開発に3年を投じ、今では堺の観光名所となるほどのにぎわいを見せる。
新型コロナウイルス感染症拡大による外出自粛で飲食店運営は厳しい状況にあるが、谷本社長は「こんなときにうまくいけば成功する」と2月に新店をオープン。「あかんかったら、やめたらしまい」。「始末」の社風のもと大胆に挑戦を続け、200年企業へと歩みを進める。
【企業メモ】1850年(嘉永3)創業。4代目の陽蔵が日本で初めてウーロン茶を輸入するなど業界の先端を走ってきた。他社に先駆けて「ISO9001」認証も取得。安全性にこだわり、堺の茶文化を国内外へ発信する。
日刊工業新聞2020年3月8日